Timeless Words

作:松田七瀬(管理者)

 

第一部 Staying and Walking

 

第一話 『バンドイーター』

 

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 潔隆は自宅に向けて歩を進めながら、自身の今後について考えを巡らせていた。バンドを辞めた今、新たにステージに上がる手段を考える必要があったからだ。
「(……いっそのことソロで行くか?、バックを打ち込みにして)」
 潔隆の価値観上、別にバンドに固執する理由はないが、ギターを普段中々出せない大音量で掻き鳴らせる場所として、ステージへの愛着は潔隆なりに持っているのである。

 

 潔隆は、他のメンバーが不満を募らせていたことをよくわかっていた。なぜならバンド結成から程なくして、隣町のライブハウスで開かれた軽音楽部の定期ライブで初演を踏んだ直後から、今日に至るバンド内の不穏の片鱗を感じ取っていたからだ。
 その時も演奏が始まるなり、オーディエンスが潔隆のギターに聴き入って静まり返り、演奏が終わってから大歓声が沸き起こるという、それこそクラシック音楽の演奏会のような光景だった。
 ステージ自体は大成功を収めた、という認識こそメンバー全員一致したものの、ライブに高揚感や一体感を期待した他メンバーは決して満足げな様子ではなかった。

 もっとも潔隆自身、決してバンドを構成する歯車の一つという自覚を欠いていたわけではない。むしろ潔隆なりにアンサンブルに最大限配慮した演奏をしたつもりだった。しかしどんなに自制したところで、どうしても隠し切れない個性を持つ者はいるもので、結果として否応なく「"Stone Free"といえば岡本潔隆の超絶ギターサウンド」というブランドイメージが付いてしまい、その後毎月のようにライブを重ねてもなかなかオーディエンスの先入観を覆せないでいる他メンバーの不満が蓄積し、今日になって遂に噴出したのである。

 

 潔隆は、長いギター歴相応に洗練された高度な演奏技術を持つが故、同年代はもとより比較的広い年代のアマチュアバンドから引く手あまたで、ロックやジャズ、果ては和楽器の楽団とのセッションまで、様々なジャンルのステージを踏んできた。
 しかし大人たちのバンドの中では年齢故の見た目、同年代のメンバーの間では演奏技術の不均衡、という要因で浮いてしまい、それ故にバンドのメンバーが潔隆を持て余したり、それこそバンドが潔隆に乗っ取られたも同然の状態になってしまうケースが多く、潔隆はいつしか同年代のアマチュアロッカーたちの間で『バンドイーター』とあだ名されるようになり、多くのバンドから敬遠されるようになった。
 またその一方で、一部の腕自慢や上昇志向の強いバンドからは積極的に誘われたが、これまでに潔隆と対等に張り合ったバンドは現れていない。ストフリもそんなバンドの一つであり、木村たちは潔隆と張り合って見せることで自分たちの実力を誇示しようと目論んだが、奮闘の甲斐なく挫折の憂き目を見る結果となった。

――お前と演ってると俺たちは息が詰まるんだよ――
 このようなことを言われたのは今回が初めてではない。それこそこれまでバンドを追われる度に似たような言葉を浴びせられ、その回数はもう両手では数えられなくなっている。初期こそ「ただ自分の役割をこなしただけなのに」と理不尽さを嘆いたりもしたが、良くも悪くも今では慣れっこになってしまっている。
 勿論、重大なミスや約束違反を犯したなら可能な限り責任を取るが、自身に非がない限りは気にしない、というスタンスをここ1〜2年は堅持してきた。だから解雇を受け入れたし、木村たちを恨む気持ちも持っていない。現在頭にあるのは、ギターを大音量で掻き鳴らす機会を如何に手にするか、だけである。

 

 

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