「……っ、くっっ……、!?」
気が付くとそこは見慣れない風景だった。コースターに乗ったところまでは覚えているのだが、明らかに乗り場とは違うところで止まっていた。
「(ココは一体……っっ!?)」
辺りを見回す中で見た足元の光景は、俺を一瞬で正気に戻した。それと同時に、全身の毛穴から汗がドッと出るのを感じた。
「(……ココ最高地点じゃん。よりによって何でこんなとこで止まるんだよ全く)」
地面が物凄く遠い。よりにもよって一番見たくないものを見てしまった。背筋がゾクゾクする。
このコースターの仕組みはこうだ。スタートは急発進することで乗客の意識を飛ばし、レールの最高地点付近で一時停止。
我に返った乗客に足元に広がる世界を見せ、それによって恐怖を煽ってから急降下する。
……というのがこのコースターの製作者の意図だという。俺はまさにその意図にまんまと嵌ってしまっているわけだ。
高所恐怖症の俺に高度100m超からの足元の世界を見せるだけでは飽きたらず、コースターは俺に更なる恐怖を与えるべく再び動き出した。
スタート時と違って緩やかに発進した……と思ったらそれは一瞬だけで、たちまち急加速を始めた。強力な加速Gが身体に容赦なく襲いかかって来る。
「……ぐぅっっっっ、っっ!!」
俺はこれでまたもや身構える機会を逸してしまった。乗り場からのスタート時はシグナルに気を取られていたので発進時は目の前が真っ暗なままだったが、
今度は周りの風景が良く見える。これなら急降下で迫り来る地面がはっきりと見えるだろう。
勢いのついたコースターはついに下り坂に入った。俺の眼前に地面が迫ってくるのを感じる。
「……っっっっつっ、っっ!!」
悲鳴を上げようにも恐怖の余り声が出ない。最初は小さく見えていた地上の物が、見る見る大きくなっていく。
「(……もう勘弁してくれ。俺はもう胸が一杯だ……)」
そんな祈りが通じたからかどうかはわからないが、突然意識が朦朧としてきた。強い光が差したかのように急激に視界が白濁し、その先に過去の記憶が映し出された。
幼き日に家の二階から飛び降りた時の記憶が。
――『過去が走馬燈のように駆け巡る』というのはもしかしてこんな感じなんだろうか―― そんなことを考えながら、俺の名を冠した流星―Shooting Star― は燃え尽きたのであった。
「……ちゃん、……お兄ちゃん!?」
微睡みの彼方から、誰かの呼び声が聞こえてきた。俺は気力を振り絞って目を開き、呼び声に応えようとする。
「……ん、んあっ!?……何だ、みなか」
声のした方を見てみると、みなづきが何やら困ったような顔で俺の顔を覗き込んでいた。俺はつい驚いてしまった。
「何だじゃないでしょ?もうジェットコースター終わっちゃったよ?」
―― ジェットコースター ―― この単語を聞いて俺はようやく我に返った。俺はジェットコースターが動き出してから、ずっと気を失っていたのだった。
「お兄ちゃん大丈夫?早く降りないと。……歩ける?」
「……ああ」
俺はみなづきの手を借りずに何とか立ち上がると、重い身体を引きずりながら、みなづきと一緒に出口へ歩き出した。
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