時の流れというものは無情なものだ。乗ることを免れたいという内なる祈りも虚しく、とうとう俺たちが乗る番がやって来てしまった。
戻ってきたコースターから降りて来る乗客の様子は様々だ。興奮冷めやらぬ者、恐怖の余り泣いてしまった者、完全に平衡感覚を失ってツレの肩を借りる者等々。
果たして乗り終えた後の俺は、彼らの内の誰のようになっているのだろうか。彼らの表情を見ていると一層不安になる。
彼らが出ていき終わると、遂に入口のゲートが開き、係員が俺たちに入るよう促した。
「さっ、行こ? お兄ちゃん♪」
俺はみなづきに手を引かれ、重い足を引きずりつつコースターに歩み寄った。
「(……はぁ〜あ、俺たち先頭かよ)」
憂鬱な思いで俺はコースターの座席に腰を下ろした。幸か不幸か最前列だ。
前にも人がいれば幾分気が紛れるのかもしれないが、それを期待することが出来ないという点で、少なくとも俺にとっては不運だろう。みなづきにとっては幸運なのかもしれないが。
乗客が皆座り終わると上下のガードバーが動き、肩と腰を拘束した。これで事実上、俺の退路は完全に断たれた。
固定が完了すると、フワッと身体が持ち上がった。このコースターはいわゆる宙吊り型。コースターがレールの軌道上に移動したのだ。
これにより足は地面から離れ、完全な宙ぶらりん状態になった。それと同時に自らの心臓の鼓動が、はっきりと聞き取れるまでになった。心拍は速くはないが、強く脈打っているのがよくわかる。
「(よりによって足元丸見えなんだもんなぁ。下見ないようにしないと)」
そう考えていると、発車のカウントダウンが始まった。この"The Shooting Star"、スタートと同時に急発進するため、心の準備も必要なのだろう。
発車五秒前になると、音声でのカウントダウンにシグナルの点灯が加わった。五つ並んだ赤いシグナルが一秒毎に一つずつ点灯し、
五つ揃ったシグナルが一斉に消えた瞬間がスタートなのはF1グランプリのレーススタートと全く同じだ。
俺は隣のみなづきの顔を見た。ガードバーが邪魔で見えにくいが、少なくとも物怖じする様子は見られない。
それを確認するとシグナルに向き直る。向き直ると同時に最後のシグナルが点灯した。
そのままシグナルの赤色を凝視していると、たちまち視界全体が赤一色に塗りつぶされ、俺は唾を飲み込んだ。
次の瞬間、眼前に広がる真紅の世界が、突如として漆黒の闇へと姿を変えた。シグナルが消えたのだ。
俺は間もなく襲い来るであろう未知の衝撃に備え、身を引き締めようとした。その刹那――
「!!!???っ」
身構えるよりも早く、背中と後頭部に強い衝撃が走った。あまりの衝撃の強さに声を出そうにも出すことが出来ない。
あまりに突然の出来事に、俺は自身が今置かれている状況を失念してしまった。
こうして、俺たちを乗せたコースター "The Shooting Star" は発進したのだった。
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