みなたんとおデート 〜THE SHOOTING STAR〜

作:松田七瀬(管理者)

 

第二話

 

 俺とみなづきが今来ているテーマパーク "Happy☆World"。 そのメインアトラクションのローラーコースター "The Shooting Star" は現在、落差と落下速度で世界一の座に君臨しているという。 100mを優に超える高さから、地面のほぼスレスレまで急降下するさまを流星になぞらえての命名だとか。
 一ヶ月程前に登場し、TVの情報番組等で盛んに取り上げられたため、今では休日ともなれば大行列が終日絶えない、まさに超人気スポットである。

 その大行列に加わって約一時間半が経ち、俺とみなづきは、俺たちのすぐ前に並んでいた客までを乗せたコースターを見送った。
「お兄ちゃん、いよいよ次だね。早く戻って来ないかなぁ〜♪」
 みなづきが満面の笑顔で俺にそう言う。俺たちがコースターに乗り込むまではあと数分だが、 その数分もこいつの中ではかなり長い時間となっているのだろうか。逸る気持ちが既に臨界点に達しているであろうことが、こいつの表情から安易に伺える。
 俺はそんなみなづきに「……ああ、そうだな」と生返事をした。 

 目と鼻の先にある未知に瞳を輝かせているみなづきとは対照的に、俺は身震いを押し殺すことに必死だった。
 俺には幼少の頃、変身ヒーローのモノマネのつもりで家の二階から飛び降り、挙げ句着地に失敗して大怪我した前歴がある。 そのことがトラウマになったためか、高いところや絶叫マシーンが大の苦手なのである。
 ただでさえ怖いというのに、相手は世界一の落下を売り物にする絶叫マシーンだ。俺が感じている脅威のレベルが桁違いなのは想像に難くはなかろう。

「(故障してくれないもんかなぁ……。今乗ってる連中には申し訳ないけど)」

「故障してくれないかなぁ」とか「雨降ってくれないかなぁ」等々、乗ることを免れられそうなアクシデントの発生を願う悪魔の雄叫びが、並び始めてから何度頭の中を木霊したことか。 その気になれば逃げ出すことは簡単なはずだが、もしここでバックれでもしたならば、みなづきに終世怨まれ続けることになるだろう。それは嫌だ。
 自ら逃げ出すことを選ぶ度胸がないばかりに、起こるかどうかもわからない外的要因に縋ろうとする。 もしこの様をあのママたちに知られでもしたら、下手すりゃさつきママあたりに大気圏外から突き落とされかねん。そうなりゃマジで"The Shooting Star"になっちまうぜ。 ……もっとも、地上から見えるようになるよりも早くに燃え尽きちまうだろうけど。

 みなづきは相変わらず物怖じする様子もなく、ワクワクのオーラを垂れ流している。大丈夫なのだろうか。
「おいみな、少しは落ち着け。あまり興奮しすぎると身が持たないぞ?」
 言ってはみたものの、聞き入れる様子はなかった。
「(こんなんじゃ『やっぱ止めよう』なんて言えないよなぁ……)」
 俺は一つ大きな溜息をついた。勿論心の中でだが。

 

 

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