芸能界デビュー。恐らくは殆どの女の子が一度は夢見たことがあるのではないかと思う。無論私もご多分に漏れず中学時代そんな事を考えていたりしたのだが……。
「別にあたしも興味ないからいいよ」
素っ気無くそう言った。
「そっか……でも惜しいなあ」
天井を見ながらぼーっとする私に食い下がるようにしてととは言葉を続けた。私もついそれに反応する。
「惜しい?」
「うん惜しい。だっておっとちゃんて、冗談とかひいき目無しに可愛いよ。性格だって明るいし、歌とかも上手いし。アイドルの資質は十分にあると思う」
「それならととちゃんの方があたしは向いてると思うな」
「言ったでしょ? あたしはアイドルじゃなくて、女優志望なの。でもさ、とりあえずおっとちゃんて今のところ特に夢とか無いんでしょ?」
「……うん」
夢が無いと言われると少々腹が立つ部分もあるが、それは事実だった。
何もする事が見つけられないし、わからないから私はとりあえず進学という道を選んだ。だが、あくまで『とりあえず』だ。別に本心から行きたいと思って大学受験をし、合格した訳ではない。
言われてみると、なんだか少し自分に遠回りをしている気さえする。
「だったらさ、とりあえず受けるだけ受けてみなよ。澄空学園でだって、おっとちゃんは知らないかもしれないけどファンクラブとか普通にあったくらいだし。絶対受かるって」
「でも……」
したいことがないとはいえ、やはり抵抗はあった。人前に出ることは正直好きな方だし、人を楽しませたり喜ばせたりするのも大好きだった。しかし、だからといって仮にアイドルになれたとしても、その仕事自体が好きになれるとは限らない。聞くところによると色々と大変らしいし、そうやって目まぐるしいのは性にあってないような気もする。要するにやっていける自信がないのだ。
「……まあ、無理に受けろとは言わないけどね。でも興味があったらやってみるといいよ」
ととはいつの間にか立ちあがっていたようで、寝そべって天井を見つめる私の前に顔を突き出し一つ笑顔を向けた。
「それじゃ、おっとちゃん。勝手におしかけてきて悪いけど、もう劇団の方があるから、あたし帰るね」
「え? あ、うん」
顔を離してドアへ向かうととの方を私は上体を起こして向き直った。
「それじゃ、またね!」
「うん。ばいばい」
ととはそれだけ言うと、私に小さく手を振って、私が同じく手を振り返すのを確認するとドアを閉めて見送る暇もなく出ていってしまった。
第五話へ続く