ばーすでいりぞりゅーしょん

作:小俣雅史

 

第三話

 

「だいたいさぁ、もぐもぐ。こんな魅力的な女の子放っておくなんてさ、もぐ。世の中の男達の眼も心配だよね、ごくん」

「ほんとほんと、もぐ。…ととなんかデビューすれば人気女優間違いなしなんだから、もぐ。今から確保しておく手はないよね」

「それはわかんないけどさ、もぐ。おっとちゃんはその気になればアイドルやタレント間違いなしっていうスタイルと性格してるよ、もぐもぐ。もったいないよねぇ、私がおっとちゃんお嫁に貰っちゃおうかな」

「それいいかもね、もぐもぐ。でも、やっぱりちゃんとした男の人とまた付き合いたいよ、もぐ。ごくん」

「そういえば、もぐ。 おっとちゃんは前彼氏いたんだよね」

「うん。ま、もうしっかりけじめつけて別れたから、もぐもぐ。やっぱり新しい出会いだよ」

「だよねぇ」

 

 喋りながらイチゴを乗せたショートケーキはみるみるその姿を失っていった。

 やがてパーティ用に買うようなサイズであったケーキは私達の手(口?)によって消滅していき、すべて食べ終わる頃には私達の日頃のたまったうっぷんは大分解消されていた。

 

「ふぅ……食べた食べた」

「そうだね」

 今後の減量の事など一切気にせず今はただ解放感に身を任せる私達。しばらく満腹と熱い愚痴の余韻に浸り、無言になる。

 それから数分くらい経過した頃だろうか。突然ととが口を開いた。

「ねえおっとちゃん」

「なに?」

「こんなものがあるんだけど」

 ととはそう言うと、ポケットから何やら書類みたいに文字の書かれた紙を取りだし、ケーキの残骸の残るテーブルの上にそれを置いた。私は何かと思い少し寝そべっていた私は上体を起こしてその紙を手にとって眺めた。

「なになに……『モリプロダクションアイドルオーディション要項』……って、何これ」

 私はととがこれを私に見せた事の意図がいまいちよくわからず少し困惑気味に尋ねた。

「一応森さんが劇団員全員に配った物なんだけどさ……私が目指してるの女優だし、あんまり関係ないから、おっとちゃんにどうかと思って」

「……ってことはつまり」

「そう……アイドル募集ってことだね。このオーディション受かると事務所に所属して、早速雑誌のグラビア撮影だとかそういう仕事てんこもりで芸能界デビューだって」

「ふーん」

 私はそれだけ反応すると再び床へと寝転んだ。

 

第四話へ続く




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