ばーすでいりぞりゅーしょん

作:小俣雅史

 

第二話

 

 とりあえず部屋にととを通すと、一人で洗面所へと向かい適当に身なりをチェックし、目立った寝癖だとかが無いと確認すると私は部屋まで戻った。

「あとちょっと待ってて、今パジャマ着替えるから」

 私はそう言うと相手が女の子だけに遠慮無くその場でパジャマを脱ぎ始める。するとととはここぞとばかりに私の体を見てコメントを始めた。

「お? おっとちゃん、また一段と胸が大きくなりましたねえ」

「そう?」

 冷淡に、あしらうようにそう答えながら着替えを続行するが内心少し嬉しかったのは認めよう。事実、高校卒業するまでより少しサイズが大きくなったし、女の子としてはやはりこれは嬉しい出来事だった。やっぱり日頃の適度な運動が効いているのかもしれない。

「そういうととだって、どっかしら成長したんでしょ?」

「まーね。これでも舞台女優の卵なんだから、スタイルには結構気遣ってるんだから」

 逆襲も兼ねた訊き返しではあったが、流石にととも女優志望だけあってボロは出さない。

 とにかくそんな男の子の前では少しし辛い話をしながら、私はパジャマを完全に着替えて(ととの『いいケツしてんな姉ちゃん』という発言は無視し)改めて部屋に置いてあるガラステーブルの前にととと向かい合うようにして座った。

「えーと。それじゃあ改めまして……おっとちゃん、誕生日おめでとう!」
 

パンッ!
 

 先程とは別にもう一個用意していたようで、ととはポケットからクラッカーを取り出すと再び私に向けて発射した。

「ありがとう、わざわざ来てくれて」

 今度は素直に私はお礼をいい、ととに正真正銘の笑顔を向けた。

 

 今日は3月20日、私の18歳の誕生日である。高校を卒業してからも彼氏のいない独り身で過ごしていた私にとってはもはや縁薄な行事だろうと当初はタカをくくっていたつもりだったが、こうやって友達が遊びに来てくれるとやっぱり嬉しい。

「さて、それじゃあ今日は……」

 ととは徐に傍らに置いていたバッグから何かを取り出す。
 

ドンッ!
 

 ととは破壊せんばかりの勢いでバッグの中から取り出した正方形の箱をガラステーブルの上に叩きつけた。そして少し怒りにも似た表情で私に何かを目で訴える。私はその意味をなんとなく察すると、お腹の中から黒い物がこみ上げてきて自然と彼女と同じ表情になっていた。

「彼氏いないペアケーキヤケ食い開始ぃ!!」

「おー!!」

 スタイルを気にする年頃の乙女はどこへやら。そんな事も気にせず私達は澄空商店街の『刻死堂』で買ってきたというケーキをがっつき始めた。

 こうしてととの号令でお互いの誕生日恒例彼氏できない愚痴大会が開始された。

 

第三話へ続く




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