ACROSS THE BIRTHDAY

作:小俣雅史

 

第八話

 

 真っ白な壁に取り囲まれた消毒液の匂いがする病室では、既に医者達がみなもを手術室に移動させる為の台に乗せかえて、術前智也とみなもを最後の会話を交わしていた。

「みなも……どうも手術は明日にまでかかっちゃうみたいだから、今のうちに渡しておくよ」

「え? 何をですか?」

 不思議そうな表情をしているみなもをよそに、智也はポケットに手を突っ込んで中から何かを取り出した。それは小さな飾り気の無い箱で、そこから中身を連想する事が出来なかった。

「誕生日プレゼント……開けてみ」

 医者や看護婦、まりえが見ている中で行われるやりとり。その為みなもはなんだか気恥ずかしかったが、わざわざ待ってくれている医者達の為という意味でもその箱の蓋を開いた。

「あ……」

 そこに入っていたのは『天地無用』と書かれた紙きれ一枚だった。

「あ、すまん間違えた」

 そのあからさまなボケに医者達はウケていたが、みなもだけは不満そうな顔をする。それを見てすぐにもう片方のポケットから今度は綺麗にリボンでラッピングされた箱を取り出す。

 今度こそ本物のプレゼントを受け取ったみなもは、そのリボンを丁寧に解いて、中身を取り出した。

「……これって……」

 それは、みなもの指と同じくらいのサイズの、小さな指輪だった。

「あー……その、なんだ。結婚指輪だなんてものは高校生のオレじゃ到底買えるものじゃないし、気が早いと思って……安物で悪いけど、それで我慢してくれないか?」

 頬を紅潮させ、頭をボリボリと掻きながら言う智也と指輪も、みなもは交互に見比べる。

「……ありがとう、ございます」

 礼を良いながらみなもは目から涙を溢れさせた。

「お、おい……」

 その様子に少しうろたえてしまう智也だった。

「嬉しいんですから、仕方ないじゃないですか……」

 本当に嬉しそうな笑顔で涙を流すみなも。その様子をずっと見ていたまりえは、みなもに言った。

「折角だから、それ付けて手術受ければ?」

「え?」

 まりえの言葉に驚いて、みなもは指輪を改めて見つめた。

「オペには影響ないわよね、先生?」

「……問題はない。というわけで三上君、つけてあげなさい」

 智也と面識のある主治医が悪ノリするように智也にも促す。全員が二人の事を祝福しているこの空間で、かなり恥ずかしい思いをしながらも智也はみなもから指輪を受け取り、片手でみなもの腕を取った。

「……それじゃ、頑張ってこいよ」

「……はい」

 わずかなやりとりの後、みなもの細く小さな指に智也はすっと指輪を入れた。その瞬間同じ病室の患者達から喝采が起こったが、流石にそれは看護士に注意されていた。

 それからみなもとまりえを乗せた台は手術室へと運ばれていった。最後にみなもは智也に心配をさせないよう小さく手を振り、医者が智也に『安心して待っててくれ』と告げるとみなもは手術室の中へと消えていった。

(…………さて、気長に待つか)

 その余裕は、みなもが助かることを確信している現われだった。

 智也は待合室のソファに腰掛けると、時間が過ぎるのを待った。



エピローグへ続く




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