ACROSS THE BIRTHDAY

作:小俣雅史

 

エピローグ

 

 ピッ……ピッ……ピッ……ピー……。

 今まで規則的に鳴っていた電子音が音を繋げた。

「…………」

 智也は言葉が出なかった。

 今自分の周りで起きている全ての情報がシャットアウトされ、その世界だけに智也は存在していた。

「……うぅ」

 そして智也の瞳から、大粒の涙が溢れた。

「三上君、何泣いてるのよ。ちょっと気持ち悪いわよ?」

 その智也に、まりえが不快そうな表情で声を掛ける。

「だって……だって……。なんかこの『ドラマ』親近感が湧いちゃってさ……ま、みなもは元気だけど」

 テレビの画面から視線を外して鼻歌を歌いながら料理をしているみなもの方を振り向く。

「あの子手術終わってから私より先に元気になって……なんだか歳を感じるわ」

「ははは……って、まりえさん。いつの間に家に上がりこんでるんですか!?」

「さっきよ」

「さっきって……」

「大丈夫大丈夫。伊吹さんには事前に連絡入れておいたから」

「そういう問題か……」

「ちなみに目的はご飯をたかりにやってきました」

 笑っていうまりえ。

「まりえさん自分で料理作れるでしょうが」

「そうだけど……今度個展を開くから、それまでに新作描き上げなきゃならないから忙しいのよ。だからある物は有効利用ってわけ」

「で、みなもを無料招待する代わりに……ですか」

「そゆこと」

 みなもの手術が成功してから二ヶ月以上が過ぎた。智也とみなもはそれぞれ春休みに入っていて日々を適当に過ごしているが、まりえは絵の仕事で忙しくなってきている。

 それでも三人の仲はそれからも続いていて、家が正面ということもあってかみなもが智也の家に来る時は毎回と言って良いほどまりえがやってきていた。それをみなもは歓迎している。しかし智也としてはもう少し二人きりの時間が欲しいという気持ちもあったのだが、みなもの嬉しそうな表情を見てしまうと抗議する気は失せる。

「できましたー」

 みなもの一声で、智也とまりえは弾かれるようにテーブルにつく。するとキッチンの奥からはみなもの料理が運ばれてきて、同時に良い香りも漂ってくる……はずなのだが。

「…………」

「…………」

 智也とまりえは顔を見合わせた。

 食卓に出されたのは、真っ白なご飯と漬物。どう考えても料理というには質素すぎて拍子抜けしてしまう。

「……みなも、ご飯と漬物だけ?」

 にこにこ顔で二人の様子を見つめているみなもに智也は尋ねた。

「そうですよ」

「……マヂ?」

「厳密には……ご飯と『きゅうちゃん』です」

「きゅうちゃん?」

 その聞きなれない言葉を聞いてまりえが不思議そうに尋ねる。だが智也はそれを以前に食しているためにあまり嬉しそうな顔はできなかった。むしろ智也は冷や汗が出る程その単語に恐怖を覚えていた。

「はい。お母さん直伝の料理です。一つ食べるとそれだけで他の物を食べなくてもよくなるっていう、便利な食べ物です。一応、ご飯をつけてあります」

(正確には一つ食べるとそれだけで他の物さえ食べたくなくなるっていう怖い食べ物だぞ、みなも)

 智也は心の中でそう思ったが、それを口に出して言う勇気はなく、まりえの顔が歪むのを見届けるしかなかった。

 それからあまり楽しいとは言いがたい食事を終えると、まりえは再び絵の作業に入る為に乾いた笑みを浮かべながら智也の家から去っていった。

 そしてみなもも後片づけを終えて、智也と何気ない雑談をソファに座りながら始めた。

「ふー。先生、喜んでくれたかなぁ」

「当然だろ。みなもが料理作ってくれたんだから、嬉しいに決まってるさ。アレを除いてはな……」

 みなもが少し心配そうに言った言葉に、智也は自分の行動に自信を持たせるように言った。最後余計な物が入ったが。

「え? 最後何か言いましたか?」

「何も言ってないよ」

 それを誤魔化す智也。

「それより、今日は遅くから来たからもう結構時間マズくないか?」

 智也は時計の針が10時を回っているのを確認してそう言った。みなもの母親はやはり今までの事があってか元気になってからもまだ心配癖が抜けずに、大丈夫だという電話をしても不安を拭い去れないらしい。その事を気遣って言った。

「うーん……そうですね……」

 みなもは少し顔をしかめて肯定する。しかしそうは言ったが、いくら経ってもみなもは帰ろうとはしない。別に帰ってほしい訳ではないが、今までの癖みたいな物が智也も抜けないので心配してしまう。それを不満に思ったのかみなもが口を開いた。

「智也さん、帰って欲しいんですか?」

「そういう訳じゃないが……なぁ」

 その煮え切らない態度の智也を見て、みなもは怒ったように立ち上がって電話の方へと向かった。

「みなも?」

 その行動を不思議に思って言ってみるが、みなもはそれを無視するように受話器をあげて電話番号のボタンを押していく。どうやら親に電話を掛けているようだが、どういう用件で電話を掛けようとしているのか智也は良くわからなかった。だが、すぐに智也は驚くことになる。

「あ、お母さん。今日は私、智也さんの家に泊まっていくね」

(ええっ!?)

 智也は声にこそ出さなかったが、心の中で随分と驚いた。別に付き合ってる訳だから、家に泊まってもさほど問題はないだろうが、今までそんな事は無かったので動揺してしまう。

「え? ちょ、お母さん。智也さんはそんな事しないよぉ……」

 みなもの母親がどんな事を言ったのかは知らないが、みなもが頬を紅潮させて否定しているところからだいたい何を言ったのかが想像できる。オレってそんなに信用がないのだろうか、そう思う瞬間でもあった。

「心配って……智也さんを信用してよね。だいたい、私智也さんとだったら……あ、なんでもない、じゃね!」

(智也さんとだったら……ってなんだみなも!? なんだ一体!?)

 最後がとても気になった。それについてみなもは自分で言って気恥ずかしくなったらしく急いで電話を切って智也のほうを振り向く。なんか改めて見つめられた智也はなんだか緊張してしまった。

「智也さん……泊めてくださいね?」

 笑顔でお願いするみなもに、智也は断る術も気持ちも持たなかった。

「……おう」

 頷いた智也を見て嬉しそうに小さく笑ったみなもの指には、綺麗な指輪が光っていた。

 

−END−

 

 

−執筆者あとがき−

 

はっぴいいいぶああああすでえええええっ!!!!

みなも!!

ここがリアルバーティカルな丙次元で
この声も想いも魂も伝わらなくても!!

自分は誠心誠意粉骨砕身乾坤一擲な気分で祝福しますですっ!!

とにもかくにもおめでたう!!

皆これからも萌えろぉぉぉぉ!!

(2002年01月20日)





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