ACROSS THE BIRTHDAY

作:小俣雅史

 

第三話

 

「それじゃあまりえ先生!! さようならっ!!」

「さ、さようなら……」

 有名人を前にしている緊張のせいか、妙に声の元気がいいみなも。その勢いにまりえは少したじろいでしまうが、笑顔を忘れずに挨拶をすると背を向けて公園を出口に向かって歩き出した。智也とみなもは揃ってその姿を見送ると、二人も並んで帰途へついた。

「智也さん、今日は人生最高の日ですっ」

 まだまりえと話した事の感動の余韻が残っているのか、そんなことを言うみなも。しかしこう一方的に嬉しがってられるのも寂しいので、少し悪戯心がわいた。

「オレと過ごした日々よりか?」

「そ、それとこれとは別ですよ。私は智也さんと居られる時が一番幸せです!!」

 智也の言った言葉に顔を赤くし全力で否定するみなも。智也はその様子が可笑しくて、つい苦笑してしまった。

「あ、智也さん酷いっ」

「はははは」

 笑い出した智也に頬を膨らませながら抗議するみなも。しかしその行動も智也にとっては可愛いものでしかなく、みなもの望通りに智也が動くことはなかった。

「うー…………あ……れ?」

 表情がいきなり固まり、みなもは何かに憑りつかれたかのごとく目から光を失った。

「どうした……って、おい!? みなも!?」

 突然みなもは腰を抜かしたように地面に座り込んでしまった。だが苦しんでる様子は全く無く、ただどこかに視線を泳がせながら今起こっている状況を把握できないかのように茫然と虚空を眺めていた。

「大丈夫か! しっかりしろ!」

 人通りの多い道で座り込んでしまったみなもは、通行人の注目の的だった。その視線が智也にとっては痛いものだったが、今はそんなことを気にかけている暇はなく、みなもを正気に戻そうと必死だった。ここにいるのにいない、そんな様子で宙を眺めるみなも。智也が肩を揺すりつづけてしばらくすると、ゆっくりと視線を智也の方へ向けた。

「……まだ、傍にいますよね」

「……え?」

 その瞬間、みなもの瞳からは涙が溢れた。



第四話へ続く




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