暑いッスね、師匠

作:小俣雅史

 

第三話

 

「……あ、そろそろお昼の時間ですね」

 相摩さんは、駅の方にある時計を見ながら言った。

 だいたいここへ来たのが11時だから、小一時間程度経ったということだろう。

 今日は朝飯も抜いて来たから、結構腹が減ってきたな。

「それじゃあ、ここで休憩してお弁当にしよう」

 みなもはそう言うと早々とスケッチブックを閉じて、オレが運んで来たみなもの弁当が入った袋からビニールシートを取り出した。

 それを一気にバサっと広げて、弁当箱をその上に並べていく。

 相摩さんもみなもと似たような弁当箱を一緒に並べていった。

 とりあえずオレも片づけを終えると、靴を脱いでビニールシートに上がる。


「はい」

 みなもはオレと健と相摩さんに、割り箸を渡した。

 それは爪楊枝とお手拭まで一緒になっていて便利な、どこかのシュウマイ屋の箸だった。 

「ところで、何を持ってきたの?」

 ふと健が割り箸を割りながら相摩さんに尋ねた。

「ふふっ……」 

 すると、何故か相摩さんは俯きながら含み笑いをした。

 瞬間、健の表情が凍りつく。

 オレはそれを見なかったことにしてみなもに料理の内容を尋ねた。 

「えと……きゅうちゃんオニギリ×20です」

「!!」

 きゅ、きゅうちゃん……しかも、二十個。

 この時、オレの表情はたぶん凍りついていただろう。

 ……あ、もしかして健もオレと同じ心境だったのか?

「智也さん、いっぱい食べると思って、多めに作ったんですよ」

「はは……そう、ありがとう、みなも」

 オレは表情を引きつらせながらもなんとか言葉を発した。

 そしてオレはみなもに促されるまま、オニギリを一つ手にとる。

「食べたら、感想聞かせてくださいね?」

 みなもは笑顔でオレを脅迫する。

 そう言われたら食うしかないだろ……。

 オレは過去の苦い経験を思い返しながら、オニギリを見つめる。

「…………命なんて安いもんさ。特に、オレのはな」

 なんといってもボイスが同じだ。

 オレはそう呟いて自分に言い聞かせると、オニギリを頬張った。

 刹那、脳に何かが干渉していくような感覚を覚え、オレは意味のわからない単語を発しながら、意識を失っていった。

 完全に意識が途絶える瞬間、オレの視界に、腐った紫色をしている液体を口から滴らせている健の死に顔を見た。



第四話へ続く




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