贈られ物

作:小俣雅史

 

第四話

 

「なぁ、どうして……なんだ?」

 ひとしきり再会の感動を味わったあと、冷静になったオレは状況の把握を求めた。

 確かに嬉しいことこの上無いのだが、非現実的であることには変わらない。

 一度死んだ者と再び会えるなんて、あるはずがないからだ。

 だとしたら、これはただの夢かもしれない。

 それはそれでも構わなかったが、それ以上にオレはもっと彩花と一緒に過ごしたかった。

 だから、確認がしたかったのだ。

「ふふ……じゃあ問題ね。今日は何の日だ?」

「……彩花の誕生日?」

「そう、今日は私の誕生日。だから、神様が『特別出血大サービスだー』って言って、私を降ろしてくれたの」

「降ろす?」

「うん、天界から、人間界へ……智也へ会うために、ね」

 オレへ……会うために……。

 彩花……。

 と、感慨はそこまでにしておいて、やはり疑問だ。

「天界って、まさか天使達がいて、実はお前は天使になったとか、そういうオチじゃないだろうな?」

「わぁ凄い智也。正解だよ」

「マジかあ!!」

 こいつは一本取られたぁ!

 ……って、そんな軽いノリでいいのか!? 

 オレ!? 「それじゃあちゃんと説明するね。人間の時の良い行いをしていた人は、天国へ行くって、子供でも知ってる日本の理屈だよね?」

(極楽浄土じゃなかったか……? 日本ってのは)

「うん」

 オレは彩花に対してそう思ったが、話の腰を折るのも癪なので、敢えて頷いた。

「それで、天国へ行った人の中で、さらに良い行いをしていた人は、天使になれるんだって」

「…………うーん」

「どうしたの、智也?」

「いや、だったらなんで彩花が天使になれたんだろうなあって思って」

「ちょ、それどういう意味よ!」

 刹那、彩花の右ストレートが空を切り裂きオレの頬にHITした。

「あたっ! そう、それが問題だ……と、まぁ脱線はこれくらいにして、続きお願い」

「うー……まぁいいよ」

 これ以上は痛いので、なんとか修正修正……。

「それで私は天使学校に通わされてて、どうも校長である神様の目に止まったらしいの」

「はぁ……」

 神様の眼ってのは、案外いい加減なものなのかもな。

「それで、私は今年の8月に卒業した後、神様のところで色々お手伝いしてたの」

「ふむふむ」

「そして今日この日、神様が特別に人間界へ降りていいって言ってくれたの!」

 彩花は、顔を思いっきり明るくして、嬉しそうに、弾むように言った。

 うんうん……やっぱ神様は良い人(?)だ。

 今まで神様なんて信じちゃいなかったけど、これからは尊敬しよう。

「そうか……よしっ! じゃあ今日が終わるまであと4時間はある。彩花の誕生日パーティを始めよう!」

「うんっ!!」

 オレの申し出に、彩花は満面の笑みを浮かべながら頷いた。

 心なしか、その瞳にはうっすらと涙が浮いていた気がした。  

   

 ぴんぽんぴんぽんぴんぽーん!

 やかましい程連続で鳴った呼び鈴。

 オレはすぐさまその正体に気づいて、つまづきながらも玄関の扉を思い切り開いた。

「とーもちゃあああん!! 彩ちゃんが来たって、本当!?」

 やはり唯笑だ。

 オレが先程『彩花が来たぞ、誕生日パーティやるからこい』と、電話で招いたので、だいたいの状況は予想していた。

 先程の呼び鈴の何倍もやかましい。

「ああ、本当だ」

 オレは唯笑の質問に素直に答えた。

「唯笑のこと、からかったりしてない?」

「オレが彩花の話題でからかえると思うか?」

「う、ううん。そうだよね……」 

「唯笑ちゃああああんっ!」

 突然、オレの後方から彩花の声が響いた。

「彩ちゃん!?」

 そして目の前にいる唯笑は幽霊でも見たような(似たようなものかもしれないが)表情で驚愕している。

 その唯笑に、彩花はオレの横をすり抜けて唯笑に飛びついた。

「唯笑ちゃ〜ん、会いたかったよ〜」

「ほ……本当に彩ちゃんだ……彩ちゃん、彩ちゃあああん!!」

 二人とも、涙を流しながらその再会を喜んでいるようだった。

 そこに少し居づらさを感じて、オレは居間へと足を向けた。

 ソファに腰を降ろすと、不意にテーブルの上に用意されたクラッカーが目に止まった。

 オレは手を伸ばしてそれを掴むと、再びソファの背もたれに寄りかかる。

「……誕生日、おめでとう。彩花」



エピローグへ続く




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