贈られ物

作:小俣雅史

 

第三話

 

 あれから何分経過しただろうか。

 正確な時間はわからないが、うっすらと我を取り戻しつつあるオレの意識は、かなりの時間を刻んでいたように思えた。

 ひとしきり出す物を出したオレは、狂おしい程の虚無感に囚われる。

 なぜ……自分は、ここにいるのだろうか。

 ここにいることで、何か意味があるのだろうか。

 彼女の居ない世界に止まって、何か意味があるのだろうか。

 普段、絶対に考えなかったことまで頭の中に入ってくる。

 なんだか何もかもが嫌になり、オレは強引に目を閉じた。

 一晩明けてしまえば、きっとどうとでもなる。

 どうとでも……なる……。

 ……………………

 ………………

 …………

 ……

(……智也ぁ、ねぇ、智也ったらあ)

(……うるさいなぁ、オレは寝たいんだよ。だから寝る)

(またそんなこと言ってえ……ほーら、起きなさい)

(いてっ……何すんだよあや……あや……彩花……)

「彩花っ!?」

 オレは除夜の鐘を耳元で鳴らされたかのごとく飛び起きた。

 布団を跳ね飛ばして周囲に視線を巡らせる。

「彩花!? どこだ!?」

 部屋の隅から隅まで、それこそミジンコを肉眼で捉えるかのように見回した。

 ……しかし、どこにも彩花の姿は認められなかった。

(夢……か?) 

「う〜、ここだよ智也ぁ」

「えっ!?」 

 オレがそれを夢だと思い始めたその時、正面の跳ね上げた布団がもぞもぞと動いた。

 ……そこかっ!?

 オレはそこに彩花の存在を確認すると、布団を剥ぎ取った。

「ぷはっ」

 少し苦しそうな表情を見せながら、布団の下から人が起き上がった。

 そしてその少女は、何かを言っている。

 それは少し怒ったような表情ではあったが、オレはそこから憎しみは感じなかった。

 あの頃から少しくらい成長しているようにみえるが、その顔は忘れることなど絶対にない。

 温かい……本当に温かい……あの……少女。

「彩花あっ!!」

 オレの思考回路は機能していなかった。

 それでも溢れ出る彼女への想いが胸を締め上げ、意識なんてせずにその体を抱きしめていた。

 きつく、きつく、彼女の存在をしっかり刻むために、とても強く。

「ちょ、苦しいよ、智也」

 彩花の言葉が聞こえる。

 彩花の声が聞こえる。

 それがどんな内容であっても、オレはただ彩花が居るだけで嬉しかった。

 いつの間にか再び涙が溢れていた。

 しかし、それは悲しみなどではなく、喜びの涙だ。

 そうしているうちに、いつしか彩花もオレの体に手を回していた。



第四話へ続く




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