贈られ物

作:小俣雅史

 

第二話

 

「…………」

 店の正面へ立ってみると、オレはそのプレッシャーに押し潰されそうになる。

 男という存在を寄せ付けない頑固一徹な可愛さぶり。

 店頭にある熊のぬいぐるみは、クリスマスの煽りか、サンタの格好をしている。

 ていうか全部サンタの格好だ。

 オレはここまできて怖気づいてしまうが、背に腹はかえられない。

 それよりもこんなところで立ち尽くしている方がよっぽど不気味だ。

 オレは意を決して、店の扉を開く。

 同時にカウベルの音が鳴り、店内の人間の一部がこちらに視線をよこす。

(……は、恥ずかしい……ていうか、なんでカウベルなんかついてるんだ!?)

 喫茶店かここは!?

 オレはそんな文句を扉につけながら、店の中での第一歩を踏み出す。

 だが、オレはここで重大な事実に気づいてしまった。

(……そういえば、彩花って好きなもんあったか?)

 オレの記憶の中には、ぬいぐるみを抱えて嬉しそうにしている彩花は存在しない。

 バカみたいにはしゃいでる幼馴染もいるが、それとは別だ。

『智也がくれるんなら、何でもいいよ』

 みたいなことを言っていた気がしなくもなくもないが、できるなら彼女の欲する物にしたい。

 だが……さっぱり思いつかん!!

「う〜ん……う〜ん……」

「あの〜……お客様?」

「ひゃひっ!?」

 おわっ!?

 唸ってるのが悟られた!?

 しかも返事が、返事が裏返ったあ!!

「プレゼントのお探しですか?」

 オレのモーションに店員は一瞬たじろぐも、ここは商売人。

 すぐさま平静さを取り戻して、営業スマイルを向けた。

「あ、はは……さいならっ!!」

「あ、お客様!?」

 オレは居た堪れなさが極限まで達し、ついに脱出してしまった。

 入ってきた時より激しいカウベルの音が周囲に散布される。

 しかしそんなことは気にもとめずにオレは逃げた。

(あー!! オレの馬鹿野郎!! なんで逃げるんだ〜!!)

 とは思いつつもオレの恥ずかしさといったら壮絶な物があった。

 光速ダッシュをし、気がつけばオレの部屋。

「……はは……なにがしたかったんだろ、オレ」

 我に返った自分は軽く自嘲気味に笑いながらベッドの上へ倒れこんだ。

 それから、自分がしようとしていた行動を笑いながら、いろいろと思考をめぐらす。

(……彩花……引っ張られすぎだろ、オレ)

(元気してるかなぁ……彩花)

(……会えないかな……なぁ、彩花)

 ……気がつけば、涙が出ていた。

 それを意識した途端、まるで堰を切ったかのように涙が溢れ出してきた。

 だがオレはそれをどうすることもできず、拭うことさえできず、そのまましばらくベッドで茫然としていた。



第三話へ続く




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