贈られ物

作:小俣雅史

 

第一話

 

 澄空駅前は今日も今日とてにぎわっている。

 道行く人達の足取りも、心なしか軽い。

 今までの経験でオレはやっと気づいたのだが、この町の住民はイベント好きだ。

 そう……キリスト降誕祭としての意味合いなんて日本ではさっぱりないあのイベント。

 若いカップルが聖なる夜を云々かんぬんというアレ。

 クリスマス。

 まだ二週間はあるというのに、澄空は既にクリスマスムードで染まっている。

 あちこちの家に見られるモミの木を彩る電飾。

 繁華街から聞こえるクリスマスソング。

 あぁ……クリスマス……。

 とはいえ、別にオレにはなんの意味ももたらさない代物であることは既に立証されている。

 あの日……そう、彩花の居なくなったあの日以来、オレはクリスマスというものに縁がない。

 毎年毎年両親は居ないし、唯笑も誘ってくれることは誘ってくれるのだが、オレはやりきれないところがあった。

 きっと、彼女の空白を感じずにはいられないだろう……。

 この秋、オレは他の女性に揺らいだこともあった。

 だが、結局オレはオレの中の彼女の存在を求めてしまった。

 それで良かったのか、悪かったのか、オレにはわからない。

 ただ、オレは満足していた。

 それだけで十分だと、オレは思っている。



 今日、オレは何となしに駅前をぶらついている。

 別に目的があった訳ではないが、暇を持て余しているオレは散歩がてら――というわけだ。

(そういえば……あのCDは今日発売だったな)

 オレは以前から購入予定だったCDの発売日が今日だということを思い出し、足を商店街に向けた。

 駅前の商店街。

 そこにオレが立ち寄ると、寒空の下だがかなり熱気が立ち込めていた。

 それほどまで活気のあるということでもあるが、どうしても耳障りさは否めなかった。

 さっさと用事を済ませてここから抜け出そう……。

 オレはそう思ってCDショップへと足を速めた。

 その途中、何気なく何が言いたいのかよくわからない電光掲示板に視線を移した。

 そこには日付と天気と気温、さらには湿度まで映されていた。

 12月7日 曇り 12℃…………。

 ……12月……7日?

 なんだっけ……妙に引っ掛かるんだけど……。

 ……あぁ、そうか。

 彩花の誕生日か。

 そういえば、去年も一昨年も、すっかり忘れてたな。

 あいつが居た頃は、毎年オレの家で唯笑も含めた三人でパーティやってたっけな……。

 懐かしい……けど、痛い記憶だ。

 だがオレはそれを封印するつもりもないし、彩花の影を切り捨てるつもりもない。

 思い立ったが吉日。

 別に渡せる訳じゃないけど……誕生日プレゼントでも買ってくか。

 居もしない子にプレゼントなんて、ハタから見ればさぞかし酔狂なんだろうな。

 オレはそんな自分に苦笑しながら足の向かう方向を女の子向けのファンシーショップへと向けた。




第二話へ続く





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