幸せの黒い鳥
作:小俣雅史
第四話
昼食後、私達は散歩に出かけた。
経済的に負担がかからないし、運動にもなってまさに一石二鳥。
加えて、私はとても楽しい。
三人で公園へ行って、そこで何をするでもなくボーっとする。
ベンチの上で高い空を見上げながら、温かい光と風を浴びる。
時間の浪費と言われるかもしれない。
しかしこの行為がいかに重要な物かは、当事者にしかわからないこと。
お父さんもお母さんもそう思っているのかな。
「あ、健ちゃーん!」
突然、甲高い声が人気の少ない公園に響き渡った。
するとお父さんとお母さんは反射的に顔を声の方に向ける。
私もそれにならった。
すると、そこには20歳になるかどうか……幼げな印象を受ける女性が立っていた。
(なにかの音楽番組か何かで見たような……)
私は少しその女性に見覚えがある気がした。
その女性はお父さんの方を見つめている。
「ほ……ほたる?」
「健ちゃん、久し振りっ!」
そして、その女性はお父さんに抱きついた。
「うわっ!」
お父さんは気まずそうな顔をしながらその女性を受け止めた。
ふとお母さんに視線を移すと、今までに見たことの無いような形相をしていた。
こわい……。
「ちょっと、白河さん」
「あ、南先生」
二人の視線が絡み合った。
心なしか、お互いの視線の中で邪気のようなものを感じる。
「その子、健ちゃんと先生の子供ですか?」
白河さんと呼ばれた女性は、私の方に視線を移しながら言った。
なんだか、良く言えば親しみやすい、悪く言えば馴れ馴れしい顔をしている。
その笑顔に私は何故か不快感を覚えた。
「うわあ……南先生にそっくり」
そんなことを言いながら、その女性は私の前に立った。
「あ、たるたる。帰ってきたのか?」
と、今度は私の背後から男性の声が聞こえた。
私は聞き覚えのあるその声に、少し不安ながらも振り返った。
「よっ。みんなお揃いで」
そこには、お父さんのお友達だという信さんが立っていた。
信さんは、お母さんと女性を交互に見て、ため息をつく。
どうかしたのだろうか?
「すずめちゃん、ちょっとこっちに来てようね」
何かを悟ったような顔をした後、信さんは私の手を引っ張った。
「え? し、信さん?」
私は訳がわからず、少し狼狽してしまった。
しかし
「大人の事情ってヤツだよ」
「……そう……」
私はその一言で納得した。
大人には、子供が詮索すると危険な事情がいくつもあるようだ。
私は迷惑をかけるのもかけられるのもあまり好きではないので、ここは信さんに従うことにした。
「二度とピアノが弾けないようにしてあげるわ」
不意に、背後からそんな声が聞こえた気がした。
第五話へ続く
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