幸せの黒い鳥
作:小俣雅史
第三話
「ふぁあ……さて」
伊波家の朝はお父さんが一番早い。
毎朝5時に起きて、ランニングへと出かける。
以前なんで走るのか聞いてみたけど『体育教師だから』と言っていた。
きっと体育を教える先生だから、体力作りも必要なのだろう。
「ん……さてと」
そしてお父さんが家を出て30分くらい、5時半になるとお母さんが目を覚ます。
いつもランニングから帰ってきたお父さんにすぐ朝食を作ってあげられるようにらしい。
でも、少し低血圧気味なのか、少し寝ぼけている。
この間なんか私をお父さんと間違えたのか、朝からキスをしてきた。
何故か舌が入ってきて少し気持ち悪かったのを覚えている。
「ただいまぁ」
お父さんが帰ってきた。
まだ朝も早いということを考慮してか、少し小さな声だ。
するとお母さんは、いつもやっていることをする。
「おかえり、健くん」
毎朝二人はキスをする。
普通の家はどうなのか私は良く知らないけど、結構激しいと思う。
腕をお互いの後ろに回して、それこそサバ折りに発展するんじゃないかってくらいに凄い。
でも、アメリカの映画とか見てると、こういうシーンが結構あるのでさほど珍しくないのだろう。
しかし、以前何回か少し違う時もあった。
私が起きてきてキスするところを見ても、基本的に何も言われないのだけど、たまに「まだ寝てなさい」とか言われる。
この時は大抵朝食が手抜きだ。
いつもはパン食にサラダとかがついてくるけど、サラダがついてなかったり、パンを焼かなかったり。
一番気になるのが
「あぁ、健くん、激しいっ!」
とか
「まだダメえ!」
とか、お母さんの苦しいような痛いそうなような、それでいて気持ちよさそうな叫びが居間から聞こえる。
一度何をしているのか見てみたい気もするけど、寝てなさいと言われたのに言いつけを破る訳にはいかない。
鶴の恩返しの鶴だって、約束を破ったら鶴は帰ってしまったものね。
私はお父さんとお母さんを失いたくないから、できるだけのことはしようと誓っている。
朝食を食べ終わると、お父さんはいつもソファに座って新聞を眺める。
私にはあんな下らない情報の塊を見て何の役に立つのかわからないけど、きっと意味はあるのだろう。
月曜日〜金曜日には必ず二枚目のページの左上を見てるのは気になるところだけど、詮索はしない。
いや、レポート作成にあたっては聞いた方がいいのかもしれないけど、秘密裏に行っているこれを露見することにもなりかねない。
この疑問は保留ということで、後日準備が整い次第行おう。
なんだか腐っている政府みたいなこと言ってるけど、あの気持ちが少し理解できる。
お母さんは、いつも食器を片づけると、洗濯を始める。
でも全自動式の洗濯機なので、洗濯物を放り込むだけで特にすることはないらしい。
その間に、お父さんとお母さんが掃除を始める。
私も掃除の時は手伝っている。
何かの拘りがあるのか、家は掃除機を使わない。
ホウキ、チリトリ、雑巾という三大アイテムを基本としている。
私の役目は、基本的にチリトリだ。
お父さんが掃くゴミを私が拾う。
それが終わると、お母さんが床を雑巾がけする。
掃除を一通り終えるとお母さんは昼食の準備に取り掛かる。
その間にお父さんは洗濯物を干して、昼食の完成を待つ。
今日の昼食は、和食のような……少し豪勢というのだろうか?
なんだか赤い……そう、血。たぶんスッポン……。
普通こんな物を昼に出すのだろうか。
これが何を示唆しているのかはわかりかねる。
しかしこういう事はさほど少なくはない。
ただ、必ず夜も同じ料理が出るのは少し困る。
「すずめ、妹か弟欲しい?」
私が昼食を摂っている最中にお父さんが尋ねてきた。
この質問も何回かされた記憶がある。
その度に私は答えを変えていた。
欲しいと思っている時もあれば、いらないと思う時もある。
今日は……そう。
「欲しい」
そんな気分だ。
でも、五歳になった私に今だ妹や弟はいない。
ずっと前から言われてる気がするけど、できない。
その前にどうやって弟や妹を作るのだろう……。
まぁ、いずれわかることよね。
「そうか……じゃあ、今日は最後までな」
「ええ」
そう言うと、二人は手にしたコップの赤に口をつけた。
「??」
なんなのだろうか。
どうしてそう不明瞭な会話ばかりするのだろう。
きっと、二人の間には子供の私でも介入できない、深い絆のようなものがあるのだろう。
阿吽の呼吸……そんなところか。
流石は愛し合っている物同士。
私も二人が好きだけど、本当の意味で愛するというのは少し違うのかも。
第四話へ続く
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