僕は夢を見る

作:小俣雅史

 

第二話

 

「うわあっ!?」

 ぼくは意識を覚醒させると同時に跳ね起きた。

 ぼくの上に圧し掛かっていたものが一気にめくれ上がり、歪な形となる。

「はぁっ、はぁっ、はぁっ…………ゆ、夢?」

 ぼくは今目の前にある現実を正しく認識し、先のことが夢だというのを悟る。

 念のため胸に手を当ててみるが、そこにはなんの異常も無い。

 どうやら確かに夢だったみたいだ……。

「はぁ……」

 落ち着いて辺りを見回すと、見覚えのある、というかぼくの部屋で、窓からはクスノキがはっきりと見えた。

 なんとなく日常の安らぎというか、そんなものを覚えた。

 そして嫌な空気を振り払おうと、ぼくは立ち上がって顔を洗いに行こうとした。

 と、その時。

「おっ!?」

 ぼくは何かに足を取られ、バランスを崩して畳に顔面を打ちつける。

 額からイったが、幸いそんなに痛い訳でもなく、ぼくは冷静に足の方を見た。

「……先……生?」

 そこには、見覚えのある女性が安らかな寝顔で寝息を立てていた。

 女性はぼくの記憶に存在する限りでは、南つばめという女性しか該当しない。

 だが……先生がそこに寝ていたとすると……。

 ぼくと彼女は、いわゆる『同衾』をしていたことになる。

「…………な、お!? え!? あ!?」

 ぼくは訳のわからない言語を発するくらい取り乱してしまった。

 今ある状況を正しく認識できないまま、あたふたとその場で意味不明な行動をとる。

 しかしいつまでも踊っている場合ではない。

 少し落ち着いてきた辺りで、ぼくは先生を起こすことを思考した。

 とりあえず畳に座って、先生の頬を軽く叩いてみる。

「先生、先生……起きてくださいよ」

「ん……うーん」

 反応があった。

 先生は身じろぎして不愉快そうな顔をする。

 起きる人に見られる表情だ。

「あ、先生? 起きましたか?」

「うーん……健くんのって……硬いのね……」

 先生は、何かとんでもないことを呟いた。

「…………」

 その言葉の意味を思考すること三秒。

「……のおおおおおお!?」

 世間の荒波がぼくに何をさせたというのだ!?

 核か!?

 狂牛病か!?

 同時多発テロか!?

 イージス艦派遣か!?

「う……ん……あれ? 健くん?」

 と、先生は気がついたようで、頭を起こしてぼくの方を向いた。

「せ、先生!? ぼ、ぼくは、なにかとんでもなく貞操に関わることをしたのでしょうか!?」

 その先生に、ぼくは何故か少し丁寧な口調になって詰め寄る。

 だが先生は少しも表情を変えずに淡々と答えた。

「……若いってこういうことよね」

 ――――ぼくの意識は、強制的にシャットダウンした。



第三話へ続く




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