僕は夢を見る

作:小俣雅史

 

第一話

 

 月に照らされ、薄く輝く窓際。

 朧月夜の中でも、そこだけは鮮明に映し出されている。

 そして、目を凝らしたぼくの視界にはひっそりと誰かが佇んでいた。

 それは、遠目、いや、暗視に見て女性……しかも知らない。

 誰だコイツは?

 不法侵入の現行犯でぼくがこのまま取り押さえて警察に突き出すか?

 そうすれば「すっご〜い、健ちゃん」とか言って惚れ直す女子が一人。

 ふふ……おっと、でも、まず事情は聞かないと……。

 ぼくは、どこか遠い場所へ向かいそうだった思考を現実に戻すと、その女性に話し掛けた。

「あの……ここで、何しているんですか?」

 ぼくはとりえあず敵意を見せないような口調で言った。

「…………」

 だが、それが聞こえなかったのか、無視しているのか、女性は窓の方を向いたまま。

 ぼくに対して何も反応しなかった。

 少し腹が立ったが、ここで怒ったら負けたみたいなのでもう一度冷静に話し掛ける。

「何をしてるんですか?」

「……何をしてると思う?」

 その女性は、ゆっくりと顔をこちらに向けると、そんな答えを返した。

 月明かりにうっすらと映し出されたその女性の顔は、なんともミステリアスな雰囲気を纏っていた。

 個人的な意見だけど、どこぞの水面にちらつく臀部を光らす虫より美人だ。

 ぼくはそんなことを考えた。

 ……でも、ぼくの質問に対しては正確に答えていない。

 逆に質問してるじゃないか。

 なんて脳みそを保有しているのだ。

 と、思ったがぼくはあえて答えてみることにした。

  「…………」

 じっくりとその女性の様子を窺ってみる。

 いつの間にか視線を窓の外の方へ戻しているのは先程と同じとして……ん?

 良く見ると、手には何かの肉塊が握られている。

 それはビクッビクッと脈動しており、明らかに生物的な物だった。

 しかもそこからは液体のようなものが滴り落ちている。

 なんだ……あれは……。

「わからないようね」

 ぼくが困惑しているのを見て、視線をぼくに向けて女性は言った。

 悔しいが……本当に何をしているのかわからない。

「わかりません」

 ぼくは素直に負けを認めた。

「ふふっ」

 女性は、勝ち誇ったような笑みを浮かべる。

 ムカツク……。

「それじゃあ、これは返してあげない」

「え?」

 次の瞬間、女性は手に持っていた肉塊をグシャリと握りつぶした。

 同時にそこからはいくつもの肉片と液体が飛び散る。

「ぐは!?」

 刹那、ぼくの胸の中に強烈な痛みが溢れ、意識が遠のいていく。

 反射的に胸を押さえると、そこは生暖かく、しかもぐちゃっとした感じだった。

 ぼくは、恐る恐るその部分を見た……。

「ヘル&ヘヴン……さようなら」

「ごぼっ」

 ぼくは、大量の血を吐くと同時に、意識を失った。




第二話へ続く





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