選択

作:小俣雅史

 

第四話

 

 それからどうなったかは良く覚えていない。

 あれから唯笑はずっと居た気もするし、すぐに帰った気もする。

 だが、一つ確かな事は、唯笑は言った。

『みなもちゃんの所へ行ってあげて』

 今まで聞きたくもなかった言葉が、すんなりと脳に入っていった。

 それは唯笑のおかげかもしれないし、唯笑のせいかもしれない。

 何を考えても、天井だけはずっとそこに居て、オレに決断を迫る。

 『行くべきか、行かざるべきか』

 『進むべきか、止まるべきか』

 『得るべきか、捨てるべきか』

 『愛するべきか、愛しむべきか』


 足は、何処へとオレを運んでいく。


 消毒薬か何かの匂いが鼻腔につく。

 そこはとても静かで、足音が妙に響いた。

 自分が存在している事を明確にし、複雑な気分だった。

 それでも歩みだけは止めずに、オレは向かうべき場所に向かう。

 一歩、また一歩、そこへとオレは近づいていく。

 そして、オレは病室の入り口へと立った。

 そこには、ちゃんと『伊吹みなも』と書かれている。

 オレは最後の決断を迫られた。

 『開けるか、開けるべきか』

 もう、この扉を開いてしまえば、もう心は止まらない。

 彼女の存在を腕に確かめるか、一生迷走し続けるか。

 しかし、オレは迷わない。

 迷ってる暇はない。

 大切な人をそこに感じるまで、オレは進むことを選ぶ。

 もう自分は傷ついたっていい。

 周りの人間を傷つけるより、よっぽどマシだ。

 
 ……気づくのは、遅かっただろうか。



 ピッ、ピッ、ピッ……

 無機質な電子音が病室に響いていた。

 一定のリズムを刻み、ただ過ぎ行く時と並行してそれは聞こえている。

 それは、死への階段。

 同時に、生の証明。

 彼女が今、ここに居る事の証…………。



第五話へ続く




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