選択

作:小俣雅史

 

第二話

 

「もしもし桧月ですけど、どちら様でしょうか?」

「彩花、オレだ。智也だ」

「あぁ智也。どうしたの?」

「今学校にいるんだ」

「ふ〜ん。授業さぼってゲームセンターにいくから」

「うっ、まあ確かに自業自得だが」

「まったく、智也ったらしょうがないね」

「うっ」

「ところでなにか用事があったんじゃないの」

「おお、忘れる所だった。帰ろうとしたら雨がやまないんで迎えに来てほしいんだ」

「迎えに?」

「ああ。だめか?」

 電話口で彩花の様子をうかがう

「う〜ん、別にいいよ」

「本当か」

「うん。それに白い傘も使いたいし」

「わかった。じゃあ待ってるぞ」

「うん」

 話し終えた俺は電話を切って彩花を待つことにした



 …………結局、彩花は来なかった。



 彼女は、今でも限りなく近くて限りなく遠い存在だ。



 前に進むことを選んだオレは、結果みなもという少女と真の出会いを果たした。

 今、一番オレの近くにいる存在、みなも。

 しかしその存在が、オレの傍から離れてしまった。

 いくらでも近くに行こうと思えば行けるのに、そこに行っても彼女はいない。

 あるのは、ただの器だけ。

 『みなも』という少女を宿していた、ただの器。

 それを見るのはあまりにも辛かった。

「みなも……」


 オレは、海に臨んでいる公園のベンチに、いつの間にか腰を降ろしていた。

 そして気がつけば、その名を呼んでいた。

 もう、冬らしい風が吹き抜けるこの場所は、一人でいるにはあまりにも寂しすぎた。

 彼女との思い出も多分に詰まっている。

 ほんの一ヶ月間の出来事だったが、それでもオレにとってはかけがえのない時間だった。

 
 もう一吹き、冷たい風が通り過ぎると、オレは再び歩き出した。



第三話へ続く




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