選択

作:小俣雅史

 

第一話

 

 ピッ、ピッ、ピッ……

 無機質な電子音が病室に響いていた。

 一定のリズムを刻み、ただ過ぎ行く時と並行してそれは聞こえている。

 それは、死への階段。

 同時に、生の証明。

 彼女が今、ここに居る事の証…………。



 波は寄せては返し、休むことなくそれを続けている。

 環境汚染などの影響で、澄んだ海とは言いがたいこの海。

 それでも浜辺だけは清閑さを保ち、漣の音が安らぎをオレに与えていた。

「おい智也、なーに黄昏ちゃってんだよ」

 遠くに聞こえた砂浜を踏みしめる音。

 それはいつの間にか砂の上に座っているオレのすぐ傍に近づき、声を発した。

「……似合うだろ」

 オレは声の正体をさほど考えもせずに悟ったので、適当に返事をする。

「はぁ……まったく、お前も何やってんだか」

「いいだろ、オレの人生だ。他人に左右される筋合いはないのだ」

「ったく、お前こんな所に居る暇があったらなぁ」

「わかってる。わかってるから……少し、時間をくれよ」

 オレはそれだけ言うと、腰をあげて砂浜を海沿いに歩き始めた。

「ま、なるようになると思うが、頑張れよ」

 オレの背中に浴びせられる声に、背を向けたまま軽く手を振った。



 ザッ、ザッ、ザッ、ザッ

 砂を踏む音が定期的に聞こえる。

 それは単純に、オレがここを歩いていることの証。

 オレが生きていることの証でもある。

 本当に、証というのは適当な物だ。

 彼女を見てるとそれがすぐにわかってしまう。

    今、病室で彼女は寝ている。

 いや、寝ているというのは間違いだろう。

 みなもは、未だに意識が戻らない。

 あれから何日経ったのかさえ、オレにはわからない。

 所詮、時間なんてどうでもいいことなのだ。

 ただ、そこに居てくれれば一秒でも永遠でもいい。

 みなもの存在を、傍に感じていたい。

 それだけで、今のオレには十分過ぎた。




第二話へ続く





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