相摩希望

作:小俣雅史

 

第四話

 

ぼくは、目の前の光景を理解する間もなく走っていた。

これは夢だ……どこかでそう思いながらも前へ進もうとする意志を止めることはできない。

たかがこれだけの距離なのに足が思うように動かない。

自分の周り全てに、粘りつくような抵抗を感じる。

静止したような時の中で、ただひたすらぼくは走った。

ひたすらに走る。走る。走る。

もう、名を呼ぶこともやめた。

選択肢は必ずしも二つじゃないんだ。

なら……ぼくはこうすることで、二人を助ける!

健「うわあああああ!!!!」

周りの空気を吹き飛ばすように、ぼくは叫んだ。

そして、遮断機を勢いのままに飛び越える。

その先にいる希ちゃんの肩を強引に引き寄せ、そのまま望ちゃんを突き飛ばした。

希・望「――――!!」

不意に、耳障りな踏切の音が聞こえなくなる。

いや、すべてが聞こえなくなった。

一瞬の閃光。

一瞬の鈍痛。

次の瞬間、ぼくの意識は遠くに飛ばされた。

…………二人の声が、かすかに聞こえていた。

 

第五話

 

ふと目を覚ますと、そこは無音で、暗かった。

でも、あの耳障りな音もなく、あそこよりは遥かに居心地がよかった。

……あそこ?

あそこってどこだ?

何か……忘れてるのか?

忘れてる?

違うな。

ぼくは、選択肢をやり直したんだ。

それこそ、ゲームのリセットボタンを押すように。

だから……これが何回目でもあり、初めてでもある。

(……二人は?)

そう、これだ。

ぼくが選ぶべき選択肢。

二人の少女。

二人……二人……二人……?

希ちゃん、望ちゃん、希ちゃん、望ちゃん……二人は、希望……。

ぼくは、再び時間の流れに呑み込まれる。

それは違う時間か、それとも正しい時間か。

とにかく、ここは現実に近い場所。

意識がはっきりすれば、全ては元に戻る。

たぶ……ん…………。

………………。

………………。

………………。

………………。




第六話へ続く




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