相摩希望

作:小俣雅史

 

第二話

 

??「痛っ!」

彼女のヒザがテーブルにぶつかった。

見ているこちらが痛くなるほどの勢いだったので、ぼくは反射的に声をかけていた。

健「大丈夫?」

??「あ、大丈夫です……」

そうは言ったものの、相当痛かったのだろう。

瞳にうっすらと涙を浮かべながら、ヒザをさすっている。

健「湿布とかいるかな」

??「ホントに大丈夫ですから……」

健「そうですか」

心配そうな顔をしていた店長も安堵のため息をつく。

まだ少し気にかかるが、彼女がそう言うならこれ以上は何も言わないことにする。

店長「えーと、それじゃあお互いに自己紹介してもらおうかな。仕事の説明はその後でしよう」

健「それじゃあ、ぼくから……」

ぼくが簡単な自己紹介を終える。

そして彼女も自己紹介を始める。

ノゾミ「私、相摩ノゾミです。いろいろご迷惑かけるかもしれませんけど……よろしくお願いします」

そう言ってペコリと頭を下げた。

健「こちらこそよろしく。ノゾミちゃん」

 

第三話

 

今までぼくが得てきたもの全ては、本当に必要なものだっただろうか?

今までぼくが失ってきたもの全ては、本当に不必要なものだったろうか?

何かを得るときには何かを失わなければならない。

許容すべき痛み。

そうしたとき、ぼくは正しく選択してきただろうか?

安らぎと痛みを、正しく味わい、味わわせて来ただろうか?

そもそも選択の機会など与えられていただろうか?

……いや、ぼくはあのときあの場所で、彼女の名を呼んだんだ。

一人の少女の名を。

一人の少女……?

二人の、ではなくて?

ぼくは選べたのだろうか、どちらか一人を。

選ばなければならなかったのだろうか、どちらか一方を。

本当にそうだろうか?

ぼくは、とても大事なことを置き去りにしている気がする。

それはなんだったのだろうか?

今のぼくにはわからない。

でもぼくは、彼女を、いや、彼女達を救いたい。

例えどうなろうと、彼女達だけは救いたいんだ。

その答えが、きっとこの光の先にある。

そう思う。

だから、ぼくは。

だから、ぼくは。

もう一度、その名を呼ぶんだ。

健「―――――――――――――!!!」


ぼくは、結局どう呼んだのだろう。

希ちゃんと望ちゃん。

わからない。

そもそもに、呼んでなかったのかもしれない。

でも…………。

光の先の『彼女』は…………優しく、微笑んだ。




第四話・五話へ続く




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