相摩希望
作:小俣雅史
第十二話
どれくらいの間そうしていただろう。
気がつけば、太陽が真上にあった。
そして、希望ちゃんは今、ぼくの腕の中で寝息を立てている。
健「泣き疲れて寝るなんて……まるで子供みたいだな」
ぼくは彼女をベンチに寝かせ、公園の中を見渡した。
すると、ブランコのすぐ傍に、子供が忘れていったのか、サッカーボールが転がっていた。
何気なくぼくはそのサッカーボールを手に取り、リフティングを始めた。
蝉の声も殆ど聞こえなくなったこの時期に、一匹だけ蝉が鳴いている。
だけど、その蝉はぼくが聞いたことのない声で鳴いている。
ぼくの知らない声で。
でも、ぼくはそんなことどうでもいい。
知らなくてもいいんだ。
そう、知らなくてもいいのだろう。
ぼくは彼女がなんなのか、知らなくてもよい。
ただ、ぼくはありのままの彼女の姿を信じている。
相摩希望。
そう…………彼女は、ぼくの希望だ。
第十三話
警報機の音が、だんだんと近づいてくる。
元サッカー部だけあって走るのだけは得意だ。
もうすぐ……そこの角を曲がった所に踏切が……!?
耳につく、不愉快な音がこだまする中で、ぼくは今視覚が捉えている光景を正しく認識することができなかった。
踏み切りの真ん中に佇む一人の少女。
目の端にはもう重量感のある金属の塊が映っていた。
手前にいる制服姿の彼女まで十数メートル。
ぼくは走り出した。
たかがこれだけの距離なのに足が思うように動かない。
大気に、粘りつくような抵抗を感じる。
警報機の音が相変わらず耳に障る。
静止したような時の中で、ただぼくはひたすらに走った。
遮断機をハードル跳びの要領で飛び越え、彼女に向かって駆けつける。
ぼくは、彼女を助けなければならない。
結局、自分を見失い、その存在をこの踏切に求めた彼女を。
自分を信じきれない彼女を。
そして、誰より愛する彼女を。
健「希望ちゃぁぁぁぁぁんっ!!!!」
愛する人の名を叫びながら、ぼくは彼女を抱きかかえ、慣性の力と渾身の力を足に集め、一気に大地を蹴った。
一瞬、閃光が目に入り、世界を失う。
そして、ぼくの両足に強烈な衝撃が走った。
再び世界は暗転する。
希望ちゃんがぼくの腕から脱け出し、哀しそうな表情でぼくの名をしきりに叫ぶ。
今度は意識が途切れる最後の最後まで、彼女に触れ合っていた。
第十四話へ続く
第十話・十一話へ戻る 小説のトップへ戻る