Memories Off 〜宇宙を翔ける想い〜
作:小俣雅史
第七話
(AYAKA・SIS……発動)
「さて……さっさと片づけるか」
上半身だけになったユウナギのブースターを一気に噴かして、オレは敵の艦隊へと向かっていった。
どうもこの機体にはブラックボックスが隠されていたようで、不思議なシステムが作動している。
足が無くなったせいもあるのか、機動力が各段に増し、エネルギーも全てチャージされている。
しかも、この機体は温かい光に包まれていた。
なつかしい、柑橘系の香りがオレの鼻腔をくすぐる。
(オレは、彩花にいつも護られているのかもしれないな…………)
そんなことを、ふと感じた。
第八話
「おーい!! 南先生!! いますか!?」
俺は走りながら肺が張り裂けんばかりの声量で彼女の名を呼んだ。
唯笑という少女も、恐らく南先生と一緒にいると考えてよいだろう。
だから俺は南先生の名だけを呼びつづけた。
そうすることで、希望が湧いてくるような気がしたのだ。
そう、俺が勝手に愛した……あの人の名を呼びつづけているのだ……。
「翔太くん……」
「!?」
突然、背後から声がかかり、俺は身を翻して身構えた。
暗いため、その顔等は確認できなかったが何かが前に立っているのだけはわかる。
俺はそれをクィクィ星人と決め、自慢のキックを繰り出した。
「きゃあ!」
いきなり轟いた甲高い悲鳴。
それは、まさしく女性の声。
「え?」
しかもどこかで聞き覚えのあるような声だ。
俺は反射的に蹴りを止めていた。
「翔太くん。私よ。南、つばめ」
暗がりの中で、その物体は俺のすぐ目の前へと歩み寄り、顔を見せる。
一瞬疑ってしまったが、その姿と声は、紛れもなく南先生だった。
「せ、先生!!」
俺は思いがけない出来事に、つい狼狽してしまう。
助けに行ったので、これは好都合ではあるが、流石に向こうから来られると驚きが隠せない。
だが……先生は、今俺の目の前にいる。
「どうしたの翔太くん。そんなに私の顔を見つめて」
先生は俺がじっと顔を見つめていることに気づいた。
だが、もはや俺には恥ずかしさとか、そういうったものを感じる力は無い。
胸の中の熱い塊が、喉元へと込み上げ、俺はそれを吐き出そうとした。
いきなりでシチュエーションも何も無いが、俺はこの衝動には逆らえなかった。
「先生……俺は……」
俺の気持ちが、口腔を通して溢れ出す。
不安と緊張と期待が入り混じり、その微妙な感情が衝動を躊躇させる。
ここまで言って言葉を止めたので、先生はやや不思議そうに言葉を待っている。
その表情から、先生は俺が何を言わんとしているのか、悟ってはいないようだ。
そして、最後のリミッターを俺は解除した。
「俺は……先生のことがっ」
「おーい!! みーなみせーんせーえ!!」
突然俺の言葉を遮る甲高い声が闇の中で反響しあう。
驚いて俺は出かけた言葉を飲み込んでしまった。
「あ、今坂さん。こっちよ、こっち」
先生は、やや強めの語調で自分の居場所を教えようとしている。
ということは敵じゃない……もしかして、この声の人が唯笑って奴なのか?
「はぁ、はぁ、はぁ、見えないよー!! どこー!?」
しかしそれでもその今坂さんは、俺達のことを見つけられないようで、虚しく声だけが響く。
やがて先生は呆れたようにためいきとつくと、声を張上げて言った。
「今坂さん、動かないで、私が行くから」
そう言うと、南先生は一目散に闇の中へと消えていった。
だが俺も取り残される訳には行かないので、それを追う。
一瞬ダッシュがトップスピードまで乗ったが、すぐにその姿は見つかり俺は足を止める。
そこには南先生と、澄空の制服を着た、どこかあどけなさの残る少女が立っていた。
「えーと、先生。その人が、今坂唯笑さん?」
「ええ、そうよ」
俺は先生にその人が唯笑だということを確認した。
それを先生は肯定する。
すると、その今坂さんは俺の前へと歩み寄ってきた。
「私、唯笑。今坂唯笑だよ。よろしくね。えーと……」
「翔太。中森翔太」
「翔太くんだね。じゃあ、しょうたん、って呼んでいい?」
突然、今坂さんはそんなことを言い出した。
しょうたん……それはほたるちゃんに呼ばれてる名だ。
だがなぜ初対面の相手に?
……ま、ひとなつっこい子なんだろう。
「いいよ」
俺は肯定した。
「さて、私達はなんとか監視の目を盗んで脱け出してきた訳だけど、これからどこにいけばいいのかしら?」
先生は暗闇を見つめながら言った。
たぶん、それは一応助けにきた俺に対して言っているのだろう。
「あ、それじゃ健達に連絡しますね」
俺はポケットから無線機を取り出す。
「もしもし、健。聞こえるか? おい。健?」
その無線機からは、ガーガーという雑音が聞こえてくる。
「おい、健。応答しろ」
何度呼んでも、それからはノイズ以外聞こえない。
電波が安定しないのか?
「おかしいな……」
仕方なく、俺は無線機をポケットにしまいなおした。
「先生、どうも連絡は無理そうです。歩いて行きましょう」
俺は先生達の方に向き直ってから言った。
「わかったわ」
「うん!」
どの道こうするしかないので、先生達も不満なく承諾する。
そして俺達は、暗闇の中を精一杯記憶を辿りながら歩き出した。
と、その時!
「オオオオオオオン!!」
いきなり暗闇を切り裂いて咆哮が轟いた。
「な、なんだ!?」
俺は驚いて辺りを見回す。 先生の表情は良く見えないが、今坂さんは不安げな顔をしながら、南先生に掴まっている。
そして、急に辺りが明るくなった。
「うわっ!」
あまりの光量に、目が一時的に潰れてしまった。
目を手で覆いながら、光に慣れるのを待つ。
20秒くらい立ってから、やっと対応が完了して、俺は眼を開いた。
「…………なんだ!? こいつは!?」
そこにいたのは、巨大なライオンのような化け物だった。
顔がなんと三つもあり、それぞれが荒い息をついている。
「あ、あれは!」
突然先生が叫んだ。
「なにか知ってるんですか!?」
その素振から先生はその正体を知っているようだった。
俺はすぐにそれを問う。
「星皇クィックィのペット……クィロベロス」
「グルル……」
先生がそう呟くように言ったと同時に、先生の言うクィロベロスの一つ顔は唸り声を上げた。
残りの二つの顔が、俺達の方を睨みつけ、体は今にも襲い掛かってきそうな体勢を取っている。
そして、俺がそのプレッシャーに呑まれ、ゴクリと唾を飲み込んだ瞬間。
「ガアアッ!!」
クィロベロスは30メートルはあろうかというその巨体を空中へと舞い上がらせ、俺達に飛び掛った。
この状況では、どうあがいてもそれは回避不能だった。
(くそ、こんなところで終わるのか!?)
「助けてっ! 智ちゃああああん!!!」
今坂さんが誰かに助けを求める。
恐らくその智ちゃんというのは、智也のことだろう。
だが……智也は恐らく……。
ドガァァァァン!!
「ギィィッ!!」
突然上空にいたクィロベロスは、奇声を上げながら横へと吹っ飛ぶ。
そしてその横腹にはどこか見覚えのあるような戦闘機が体当たりをしていた。
あの戦闘機は……もしかして、ユウナギのコクピットブロックか!?
「唯笑を虐めていいのはオレだけだぁ!!」
その戦闘機から、聞き覚えのある声が轟いた。
……智也だ!!
生きてたのか!!
「あっ! 智ちゃん!! お〜い!! 智ちゃあああん!!」
今坂さんはぴょんぴょんと飛び跳ねながら、智也の名を呼んでいる。
「おう、唯笑! 今すぐ片づけるから待ってろ!」
智也はそれに答えると、戦闘機を人間タイプに変形させた。
だがしかし、それは先程のユウナギとは違い、少し小さくなっている。
……たぶん下半身を失ったのだろう。
上半身、下半身の合体で構成されているユウナギ。
上半身に一人乗れば、下半身はオートで稼動できるシステムのユウナギなのだから、上半身だけで戦闘できるようでも不思議は無いだろう。
「喰らえ犬っ!」
そう言うと、両脚部から銃のような物を二本取り出した。
そして智也は引き金を引く。
その瞬間大量の銃弾がクィロベロスを襲い、生物であるクィロベロスからは大量の血が溢れる。
だがクィロベロスもやられっぱなしではなく、口から火炎を吐く。
まるで怪獣映画のようだ。
「当たるかぁ!」
智也は瞬時に戦闘機形態に変形し、それを上へ翔けることで回避する。
さらに上方から智也は戦闘機の両翼に装備されているビームガンを発射した。
「ガッ!?」
それがクィロベロスの顔を二つ潰し、残りは顔一つとなった。
「とどめだ!」
智也はそのままクィロベロスまで突進していく。
かなりの速力で、何だかそれは光の尾を引いているようにも見える。
そしてその距離がわずか10メートルというところで、ユウナギは変形した。
それは例えるなら豹のような形をしていた。
そして、智也は叫ぶ。
「ニンブルキャット斬撃ぃ!!」
一瞬のうちに爪が射出され、それが一気にクィロベロスの顔を斬り裂いた。
「グオオオオオオオオオ!!!」
斬り裂かれた顔から、夥しい量の鮮血が噴出する。
クィロベロスは再び咆哮をあげ、顔を振り乱しながら、やがて倒れていった。
第九話・十話・十一話へ続く
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