Memories Off 〜宇宙を翔ける想い〜
作:小俣雅史
第三話
「信くん、来たよ!」
いきなり敵の機体が崩れだしたと思ったら、その中からアサナギそっくりの機体が飛び出してきた。
恐らくコイツと同時開発されていたというユウナギだろう。
それが右腕の拳を輝かせ、紫色の軌跡を残しながらアサナギへと突っ込んでくる。
「いくぞ! 希望の光、ジェミニレーザー!!」
信くんがコクピットの両サイドにあるレバーを同時に下げると、アサナギの背部から二つの板が飛び出す。
それは不規則的な動きをしながらユウナギの真横に移動した。
そして信くんはレバーの先についていたボタンを押し、ユウナギに向けてレーザーを発射した。
「少し、遅いな!」
智也の声が音声のみの通信を通して聞こえてくる。
だが、信くんはその智也の言葉に鼻で笑った。
ユウナギはレーザーを回避したように見えたが、そのサイドにあった板がそれを反射した。
その反射したレーザーがユウナギの左腕に直撃し、肘から下がアサナギと同じように寸断された。
「くっ、やるな信!」
だがユウナギは速力を全く落とさずに、アサナギに拳を叩きつけた。
「うわっ!」
強い衝撃がアサナギを襲い、ぼく達は後頭部を座席にぶつけて鈍痛を感じた。
一瞬意識が朦朧とするも、幸い大したことはなくぼくを含めて三人とも無事である。
信くんは既に次の動作に移っており、操縦桿を巧みに操作する。
「渦巻く拳、エディナッコォ!!」
「聖典によるアブソリュートシールド!!」
信くんの声に一瞬遅れて智也の声が被る。
次の瞬間アサナギの残された腕は高速回転し、そこから大量の電流を発生させ拳ごとそれを叩きつける。
しかしそれの発動と同時に、ユウナギの肩の射出口から光が飛び出し、その光でできた文字の羅列がユウナギを包んだ。
ガァン!
アサナギの攻撃はその文字の羅列、一種のバリアに弾かれた。
だが信くんは少しも焦る様子は見せなかった。
「へっ、やるなバカ智也」
「うるせえよ、アホ信」
智也の表情はわからなかったが、二人は笑っているようだった。
たぶん、これは二人の戦いなのだろう。
この戦いにぼくと翔太の入る余地はなかった。
「リアリティックドロウ!!」
ユウナギは脚部のバーニアで急後退しながら指を不気味に動かし始める。
やがてその先端から黄色い線のような物が現れ、黒魔術で使われるような魔法陣が現れた。
「ライジングホーククロウ!!」
信くんはその魔法陣から異様な気配を察し、ユウナギの下方へと回り込み、下から脚部の先端を爪状に変形させて蹴り込んだ。
だがそれより若干早く魔法陣がアサナギの方に移動した。
ヒィィィィィン……
「ぐあああ!?」
「ぐっ!?」
「つぅっ! メーザー!?」
急に耳を破らんばかりの低周波がアサナギを襲った。
そのせいでアサナギは蹴りを空振りさせ、なおもぼく達への攻撃は続く。
耳をきゅうっと締め付けるような感じが不快感を強烈に煽る。
「信、とどめ行くぞ! ブラックホールシアター!!」
ぼく達に吐き気と眩暈と頭痛が襲う中、ユウナギは腕を発光させ始めた。
漆黒の宇宙空間の中で、その光は激しく瞬いている。
まるで一つの恒星を見ているほどの発光量だ。
そしてユウナギはその腕を、全面に向かって突き出した。
(あれは……次元の壁を……)
ユウナギの腕が忽然と無くなった。
たぶん腕だけ他次元へと干渉しているのだろう。
そしてユウナギの腕の周りの空間が急に広がり始め、気がつけばユウナギを呑みこめる程の大きさとなっていた。
それを見計らったようにユウナギは背部からフレームのような物を射出し、その裂け目を囲んだ。
すると修正力が働いてすぐに戻るはずの裂け目が、腕を放しても維持されている。
あのフレームは空間を固定する道具なのか……。
「……っ! 信くん、アサナギの周りの空間が揺れ始めた!! 吸い込まれるよ!?」
「なにっ!?」
「あれは……南先生がさらわれた時のと同じ技術……やっぱりユウナギは改造されてたのか……」
焦る信くんとぼくをよそに、翔太はどこか納得したように頷いている。
そうか……あれで南先生を……早く、助けなければ。
そんな別のことを考えているうちに、アサナギはフレームの中の空間へと引き寄せられはじめた。
「信くん!? どうするの!?」
ぼくは意識を目の前に戻し、打破策を信くんに求めた。
「くっ……智也は本気かよ……ほんとガキだな。なら、こっちも行くぞ!!」
すると信くんは、操縦桿を思い切り引いた。
あの技は……アサナギの最終兵器……。
信くんも本気でユウナギを倒すつもりらしい。
そうでもしなければ、やられるってことか……。
「うおおおお!!!! 燕のように舞え!! シーグランドウィンドオオオッ!!!」
アサナギの両肩のフィンが物凄い唸りを上げながら回転を始めた。
それは、宇宙空間中なので空気は無いがその代わり浮遊する電子やイオンなど様々な分子を巻き込み、一気に加速させる。
もはや空間の裂け目は眼前へと迫っており、今にも吸収されそうだった。
幸いこのゲートの維持はユウナギもかなりの動力を必要とするらしく、動けないでいる。
これなら……計算上、68.231%やれる!!
「シュートォッ!!」
信くんがそう叫ぶと、ぼくと翔太はコクピットの足元にあるボタンを全力で蹴った。
この技だけは発動させるのにぼく達の力がいるのだ。
刹那、宇宙にさえ轟く強力な唸りをあげながら様々な色に光る竜巻がゲートのフレームを直撃した。
「ちぃっ!」
それの直撃したフレームは、いとも簡単に四散し、裂け目はすぐに閉じていった。
ユウナギは竜巻をギリギリで回避したため、無傷だった。
(まずいなぁ……今で結構エネルギー消費しちゃったよ)
ぼくのモニターには、エネルギーの残量を示すメーターが危険な状態を示していた。
だが信くんはそんなことを気にしてる暇はないらしく、通常の肉弾戦をユウナギと始めた。
拳がぶつかり合って火花を散らしたり、蹴り込んだり、かなりぼくらに負担をかける戦いになっていく。
それが数十分も続き、そろそろ信くんは、恐らく智也の方も体力が無くなってきたようで、動きが鈍くなってきていた。
そして、この時をを狙いすましたかのように、それは起こった。
「っ!? 信くん!! クィクィ星の方からKUIQ級の戦艦が……49艦、一斉に攻撃してきたよ!!」
レーダーに突如として映ったエネルギーの塊の数々。
これは確実にぼく達が狙いだった。
「信、避けるぞ!!」
「ああ!!」
アサナギとユウナギは戦闘をやめ、二人ともビーム砲を避ける動作へと入る。
やがて無数のビーム砲がアサナギとユウナギを襲い始める。
「くっ!」
信くんはかなり辛そうな様子でその砲撃を避けようと操縦桿を動かす。
額からは汗が吹き出し、苦悶の表情を浮かべていた。
だが砲撃は中々止まらず、残り少ないパイロットの体力をどんどん削っていく。
(このままじゃ……やられる)
第四話へ続く
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