「毎度ぉ〜」
夜店のおばちゃんからオレの金と引き換えに、ヒナの手に手渡されたピンクのチョコレートでコーティング
された黄色い南国の果物は、彼女と共に跳ねまわっている。
「そんなに跳ねるなよ……チョコバナナ落としてもオレは知らないぞ…」
背中には射的の景品たちを収めたスポーツバッグ、右手には『おっきなピチュー』
左手にはチョコバナナというまさに完全武装(何の?)でオレはヒナに注意を促す。
だが、その注意も無駄になってしまった。
「おにいたまぁ……きゃ!」
跳ね上がって着地する時に石を踏んで……
――どてん!!
ヒナは前のめりになって派手に転んだ。
……勿論、チョコバナナは地面に落ちて昆虫以外には食べられるものではなくなってしまっている。
「……ふぐっ…うっ…」
「大丈夫か?…よっこらせ…と」
オレはうつ伏せになったヒナに近寄って、彼女の両脇を掴む。そして、ヒナを立たせた。
右腕を塞いでいた荷物(ぬいぐるみ)はオレの傍らに置いている。
浴衣についた土埃を払い、改めてヒナの姿を見ると、膝には血が滲み、真新しい浴衣を赤く染め、ヒナの目には涙が浮かんでいた。
「(従姉妹の花穂ちゃんじゃないんだから…)ほら、ヒナ……そのままにしていると傷が化膿するぞ」
オレは…心の中で突っ込み入れつつも涙を拭いてヒナを抱きかかえ、荷物を手に
とって近くの公園に向かった。ヒナの怪我を消毒する為に。
「傷にしみるけど…我慢しろよ?」
近くの公園でヒナをベンチに座らせて、傷口を水に浸したバンダナで拭く。
バンダナの冷たさが傷口に染みるのか、時折…
「いつうっ…!」
…と声を上げる。オレは痛みに耐えるヒナの顔を見て、
「もし痛かったら堪えてないで『痛い』って言ってくれな?…少しは優しくするから」
「うん……」
そう言って再び傷口を拭く。勿論さっきよりも優しくいたわる様にして。
「これであらかた傷の方は拭き終えた…と。後は浴衣のほうのしみ抜きだ」
傷の手当てで一寸ばかし頑固になっている浴衣の染みを取ろうとしたとき、ヒナが…
「あのね、おにいたま……」
「どーしたんだ?」
「実はヒナね……『くまちゃん』よりも『おっきなピチュ』よりもね…もっともっとほしいものがあるんだ……」
唐突に切り出したヒナの一言、何時も無邪気で親鳥についていくカルガモの雛のようなヒナの…何時もとは違う真っ直ぐで真剣な眼差し。
それに中断されてしまった浴衣の染み取り。
「その『欲しいもの』ってなんだい…?」
「あのね……おにいたま、…もっと、ヒナの近くに顔を寄せてくれないかな?」
第四話へ続く