「衛…、着替えを用意しておくからお前から先にシャワー浴びなよ。後、そのずぶ濡
れになったジャージを洗濯機の中に入れといてな」
「うん……」
衛が風呂の中に入るのを確認して、オレは衛の着替え用に自分のパジャマを脱衣場に持っていった。
脱衣場に入ると、シャワーの音に紛れて衛のむせび泣く声が聞こえる。オレは思わず……
「衛!!」
……のことが心配になり、風呂場のドアを開けてしまった…。いきなりオレが入って来たことにびっくりした衛は…
「あ……あにぃ…いやぁ〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜!!」
と、衛のシャワー&風呂オケ攻撃でオレを追い払った。
「あ…たた…あぢぃ! ご…ごめん!」
慌てて短く一言いい放ちながらオレは風呂場のドアを閉めた。
そんなトラブルを抜きにして衛が風呂から出て、オレがシャワーで身体を温めてから10分くらい。
互いに言葉もなく、ただ沈黙の中で無意味な時間を過ごしていた。言いたい言葉はお互いに1000くらいはあった筈なのに……。
…オレはそんな状況が嫌になってきて、部屋に置いてあるMDマルチプレーヤーを起動させる。
流れ出るMDから、こんな季節にぴったりな雨の曲――L'Arc〜en〜Cielの『Singin' in the Rain』――が流れる。
そんな中で、どちらからともなく……
「「衛(あにぃ)…なにかあったの?」」
……と、二人異口同音に聞き出した。
一瞬の沈黙、そこからどちらからともなくこぼれる笑み。そして……。
「…とりあえず、オレの方からがいいよな?」
そう言ってオレは衛から悩みを聞くために自分が今悩んでいること――他愛もないけどお仕事関係での悩み――を打ち明けた。
「……ごめんな。オレばっかし話してたみたいで…」
「んーん、それにしても……あにぃにも悩みがあるんだ」
「なんだよ! その『あにぃにも』ってのは! いくらオレでも…」
わざとらしく語気を荒げる。
「ごめん…あにぃ」
飼い主に叱られた子犬のようにしゅん、とする衛。そんな姿を見たオレは一寸ばつが悪そうに、
「……こっちこそごめんな…衛にあたっている様で」
――ザー……――
再び訪れる沈黙の世界。激しくなる雨の音以外何も聞こえない。そんな中、衛が沈黙を破るかのようにポツリと呟いた。
「あにぃ……ボクさ、今の部活やめたいよ……」
第三話へ続く