燕を招く空は晴れがいい
作:小俣雅史
後編
「っつ……お前、いきなり何をするんだ!?」
「俺はお前知ってるぞ……お前だけは、お前だけは……先生は健が好きってわかってるけど……あの時の女の人の借りは返す!!」
「……? あぁ、そうか。あの時のガキかああ!!」
語尾を荒らげたかと思うと、朱雀は立ち上がる前に翔太のふくらはぎめがけて水平に蹴りつけて翔太を地面へと転ばせた。
「翔太!?」
「来るな健!! 俺にやらせてくれっ!」
ぼくは慌てて翔太を援護しにいこうと飛び出したが、それは翔太自身によって制止された。
その時の翔太の表情に並々ならない決意のようなものが窺えたために、ぼくは足を止める。
「今度は手加減はしないぞ、ガキ」
すると先に立ち上がっていた朱雀は翔太が立ち上がるのを待って、横っ腹を強く蹴った。
「うっ!」
翔太はそれをもろに受けて、そこを押さえつけながらよろける。
朱雀はそれに追い討ちをかけて、心臓の部分を足の裏で蹴った。
「うわっ!!」
蹴られた翔太は吹っ飛ばされて、上手くバランスを取れずに後頭部から草の上に叩きつけられた。
「いてえ……けど、まだあの時程じゃない!!」
翔太は形相を変え、今までぼくでも見たことの内容な真剣な表情で体当たりをしていった。
それから翔太は何度も突き飛ばされ、蹴り飛ばされ、何度も何度もどんなことをしても地面に伏せられていた。
しかしそれでも翔太は諦めず、止まらず朱雀へ向かっていく。
そんな翔太を見て、ぼくはなんだか居た堪れなくなってしまった。
(翔太はこんなに先生のことを想ってたってこと……じゃあぼくは?)
(少しやられたくらいで起き上がれないのか?)
(ぼくの想いは、その程度なのか?)
(……違う)
(ぼくは……ぼくは、先生のこと、誰よりも愛しているって言う、いや叫びたい!!)
「ぐはっ!!」
「うっ!!」
翔太の渾身の蹴りが朱雀の鳩尾に決まった。
それには朱雀も蹲って苦しんでいる様子だった。
だが翔太も同時にボディブローを受けて動かなくなっていた。
それにはぼくも駆けよって、翔太を仰向けに寝かせて意識を確かめた。
だが完全に伸びているようで、まだ心臓が動いていることを確認すると、いつの間にか立ち上がっている朱雀へぼくは立ち向かった。
「まだ懲りないのか……頭の悪い奴だ」
「っるさい!! 頭の悪いのはお前だよ!!」
ぼくは朱雀に向かっていく。
突き出した拳はやはり交わされ、横から顔面に鉄のような拳が飛んでくる。
けど直撃したって、ぼくは倒れない。
今回だけは倒れちゃいけない。
どんなに痛くて、どんなに苦しくても、結局一番苦しかったのは先生だったのだろう。
ぼくは先生と一緒になりたい。
だったらせめて、先生の苦しみを少しでも味わわなければその資格はない。
こんなのは、先生が受けた苦しみに比べれば痛くもかゆくもない。
ただ殴られるだけ。
そんなのどうってことはない。
殴られても……蹴られても……そんなのは、どうだっていい!!
「うおおおおっ!!!」
ぼくは軸足を思い切り踏ん張り、サッカーで鍛えた自慢の左を思い切り朱雀の顔面に叩きつけた。
それには朱雀も相当効いたようで起き上がれなかった。
だが顔だけは動かして、さらに焦点の定まっていない瞳をあちこちに彷徨わせていた。
「つばめ……僕は君のことをこんなに愛しているのに……」
それでも朱雀はこう繰り返しつづけた。
その言葉に虫酸が走る思いがしたぼくは、その耳元に口を近づけて叫んだ。
「先生、いやつばめをこの世界で誰より一番愛しているのはお前なんかじゃない……このぼくだ!!!!」
それきり、朱雀はしばらく動かなかった。
−END−
−執筆者あとがき−
一時間で書き終えた駄文……。いやクソ文だな。
これは以前書いた燕の舞う空は快晴なりの続編と思われる作品です。
まぁ思い切りバトってる訳ですが結局つばめはでてこぬと……。
これで心おきなく健はつばめと会える訳ですな。 あー書いた。
であであ
(2002年1月03日)
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