ACROSS……

作:小俣雅史

 

第三話

 

 着くまでの間、オレとみなもは他愛もない会話を繰り返していた。

 それは本当に日常的でありきたりで、それが逆に心の安らぎを与えてくれる。

 こんな気分は、本当は久しかった。

 今までオレの隣にはいつも唯笑が歩いていたが、こんな気持ちにはならなかった。


 もっと昔。

 そう、彩花と一緒にいた頃の……あの感覚だ。

「智也さん。智也さんは、私のこと好きですか?」

 突然、みなもはオレにそんな質問をしてきた。

 あまりに唐突過ぎて、オレは一瞬返事を躊躇ってしまう。

「なんで黙ってるんですか?」

 少し哀しそうな表情をみなもは見せる。

 まずい、誤解されてしまったようだ。

「オレはみなもが好きだよ。誰よりも愛してる自信がある」

 やや取り繕っている部分があったが、オレは本音をさらけ出した。

 しかしさらっと言ってしまったので、それに対しみなもは深く追求してこなかった。

 一人で急に歩く速度をあげて、オレに背中を見せる。

 その背中は、なんだか物悲しかった。

 ……伝わらなかったのかな?

 そうこうしているうちに、オレとみなもは海へとたどり着いた。


「ついたね」

「はい」

 淡白な会話を交わし、オレとみなもを砂浜の上に腰を降ろす。

 オレは持っていたイーゼルも砂浜の上に置こうとしたが、すぐに描き始めるかもしれない。

「これ立てる?」

 そのことをすぐに尋ねた。

「あ、私がやります」

 みなもはそう言うと、腰を上げてオレからイーゼルを受け取ると、そのままそれを立てた。

 だがみなもは描こうとはせず、そのまま砂の上に座り込んでしまった。

 何だかその姿に妙な寂しさを感じて、オレは口をつぐんでしまった。

 そしてみなもは沈黙を続ける。

 オレは不甲斐なく、切り出す言葉が見つからない。

 なんだか漠然とした不安までもが押し寄せ、妙な緊張感がオレを襲い始めた。


 それからしばらくして、沈黙はピリオドを打つ。

 先に口を開いたのは、みなも。

「……智也さんは、永遠の世界って、欲しいと思ったことありますか?」

 それは突拍子も無かった。

 みなもの表情は水平線の彼方を見つめたままだったが、とてもふざけているようには見えなかった。

 永遠。

 その単語が妙に頭の中に焼きつく。

 オレは、永遠を欲しいと思ったことがあるのか……?

「わからないよ。でも、今みたいな生活が続いたらいいなってのは思うよ」

「私と、永遠に居たくないんですか?」

「……え?」

「私は……永遠が欲しい。消えないように、永遠が……欲しい」

 瞬間、辺りは暗くなった。

 だが決してそれは真っ暗ではなかった。

 眼前に広がっていた海が、金色の光を放っている。


「これは……」

 その光景は、悪寒がするほど神秘的で、眩しかった。

 とても綺麗だった。

 だが……胸の奥にざわめいている、これは何だ?

 何故、騒ぐ?

 失いたくない、失いたくない、失いたくない。

 その単語が壊れたテープレコーダーのように同じトーンで何度も何度も頭の中で繰り返される。


 みなもは?

 それに気がつき、隣に目を向けた。

「あ……」

 だが、そこには誰もいなかった。 

 そこにいるべきはずの人がいない。

 どうしようもない喪失感。

 苦しくて、辛くて、悲しくて。

 心が押し潰されていく。

「みなも! みなも!!」

 オレは叫んだ。

 少しでもその存在を感じようと、立ち上がって無意味に駆け回る。

 だが、どこにも彼女の姿は無い。

 邯鄲の夢は終わった。 ……オレは、また失ってしまったのか?

 彩花を失い、みなもを失い……再び、彼女を失ったというのか?

 この金色の海は、少しでも望めば永遠だったのか?

 オレとみなもは……永遠に居られたのか?

 彼女との永遠を失えば、悲しみとの永遠しかないのか?

 どっちかを取るべきなのか?

 なら……。

「オレは……みなもとの永遠が……欲しい」

 ――世界は暗転した。



 また、オレはそこにいた。

 降ろされていない遮断機。

 全ての淵であり、全てが潰れた場所。

(みなも……お前は……どうしてオレの傍からいなくなった……)

 ここは苦しみや悲しみだけが支配している。

 でも……彼女を忘れてしまうよりずっといい。

 遮断機なんて、降ろさなければ良かったんだ。

 ここは全ての終わりであると同時に、全てが詰まっている場所なのかもしれない。

 ここが……永遠なのだろう。

 オレとみなもが、唯一永遠に一緒にいられる場所。

 ここが……オレの居るべき場所。

 でも…………。


 ここには、彼女はいなかった。

 

−END−

 

 

−執筆者あとがき−

 

今回は、珍しく暗い話を書いてしまいました。

この話の中ではみなもにゃんが死んでしまったことは言うまでもないでしょう。

これは全然本意ではないのですが、最近のスランプの打破にと、趣向を変えてみました。


今、あとがき書きながらサンコレ聞いてます。

丁度つばめさんの『Swallow』です。

そういえばヤクルト日本一。

関係無いけどよっしゃ!!!

96年来のヤクルトファンとしてはこれまた嬉しい!!


無駄なコト書きまくってしまいましたね。

であであ

(2001年11月3日)





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