Memories Off 〜宇宙を翔ける想い〜

作:小俣雅史

 

第一話

 

「イナケン! 出力こっちに回せ! 一気に抜けるぞ!!」

「了解!」

 ぼくは全方位にある複雑怪奇なコンピューターをすぐに操作し、信くんの乗る壱号機の方へエネルギーを回した。

 ぼくの乗る弐号機、翔太の乗る三号機から稼動エネルギーを全て出力したので、ぼく達のシステムはダウンしてしまう。

 しかし基本的に合体した状態での移動は信くんが行っているので、さほど問題は無かった。

 クィクィ星人殲滅用に造られた対異星人用宙間戦闘ロボット『アサナギ』は敵の戦闘機の間をすり抜けながら、敵の母星まで一気に駆ける。

 だが背部バーニアの噴射口に負荷がかかりすぎている上、バランサーも高速移動のせいで不安定になっている。

 このまま移動し続ければ、バーニアが焼け落ちてしまう。

 だが止まれば安定して戦えるかどうかもわからない。

 ぼくはこの状況を的確に翔太に伝えた。

 全体的に指示を送るのは翔太の役目なのだ。

 ちなみにぼくは出力調整、データ管理、その他レーダー関係を担当。

 信くんは戦闘担当だ。

「……稲穂! このままじゃどの道機体が持たない。戦闘に移行しよう! バランスは……稲穂の腕でなんとかしてくれ!!」

「わかった!」

 ぼくはシステムを起こし、出力を押さえて急制動した。

 その瞬間かなりのGがぼく達にかかったが、そんなことを気にしている余裕はない。

 一気にクィクィ星人の戦闘機がアサナギを捕捉した。

「ターゲット集中! 信くん! 全方位合計24機に狙われてるよ!」

「んなもん避けきれるかってんだ……なら、オールレンジストリームゥ!!」

 信くんは操縦桿から手を離すと、真上にあるレバーを思い切り下に引っ張った。

 これはアサナギの必殺装備の一つだ。

 次の瞬間ぼく達は全員軽い眩暈を覚える。

 必殺技というのは、結構操縦者に負担をかけるものなのだ。

 次の瞬間、アサナギは静かに流れ、宇宙空間を舞う。

 一見遅く見えるこの動きだが、実際はかなりの速力で動いているのでそう簡単に狙撃されない。

 敵の合計72本のビームを全て交わし、ミサイルを発射した。

 それから数秒後、ぼく達を囲んでいた戦闘機達はレーダーから消えた。

「よっしゃ! 効果覿面ってやつだな」

 信くんは大きくガッツポーズをして不敵な笑みを浮かべている。

「伊達に高校中退してないな」

 そんな信くんを、翔太は軽く揶揄した。

「それは関係ないんじゃないかなぁ……っ! 敵機接近中! サイズは……え!?」

 ぼくのコクピットの画面に一瞬映った影。

 最初は先程の戦闘機と大きさは変わらなかったが、急に影が巨大になった。

 刹那、高熱源反応をそれから感じた。

 この揺らぎは……。

「まずい信くん!! 陽電子砲が来る!!」

「え?」

 バシュンッ!

 もはや肉眼で捉えることができない速度でエネルギー体がアサナギを貫いた。

 意識的かどうかは知らないが、信くんが咄嗟に機体を動かしていたので、幸い胴体部への直撃はまぬがれたが、右腕の肘から下が消滅した。

「なんて破壊力だ……このアサナギの装甲を……」

 翔太は呟くように言った。

 確かに、この機体はパイロットを考慮しなければ太陽にだって突っ込めるはずだった。

 それからしばらく茫然として動きを止めていると、その出現した機体はぼく達の方へと向かってきた。

 レーダーの上では攻撃を仕掛けてくる気配はないが、ぼく達が下手に動くと今にも撃たれそうな雰囲気だった。

 そして、ある程度近づいた所で、急に通信がその機体から入った。

「翔太……」

「あぁ、わかった」

 通信担当の翔太にぼくが促すと、翔太は恐る恐る回線を開いた。

 同時に画面上に相手の顔が映し出される。

 その顔は、どこかで見たような……なんとも形容しがたい不思議な雰囲気を纏っていた。

「智也ぁ!?」

 突然信くんが叫んだ。

「ん? 稲穂、こいつのこと知ってる……って地球人じゃないか!?」

 良く見ずとも、その顔は紛れもない地球人。

 しかも日本人系の……ぼく達とそう歳も変わらない少年だった。

「やっぱり乗ってるのは信達か……。そうだ。オレは三上智也だ」

 その男はぼく達に名を名乗った。

 しかも信くんと知り合いらしい。

「智也、お前何やってんだよ!?」

 信くんは焦ったような表情で叫んだ。

 どうにも目の前の現実が信じられないようだ。

「……悪い、信。オレにも事情があるんだ……」

 智也という人物は、決まり悪そうに俯き、そう一言呟くと通信を切ってしまった。

 信くんを映しているモニターに目をやると、信くんが怒りとも悲しみともつかない様子で震えていた。

「そういえば……唯笑ちゃんと最近会ってないって言ってた……まさか!?」

 信くんは何かを察したようで、急に顔をあげてぼく達に言った。

「あいつは彼女を人質に取られているのかもしれない! だから、適度に壊すぞ!」

「え? あ、うんわかった!」

「了解だ!」

 信くんの号令と同時にぼくはミサイル以外の攻撃兵器の出力をある程度絞った。

 それから信くん自分を落ち着かせるように深呼吸をすると、智也の乗る巨大な機体へとアサナギを動かした。

 

第二話へ続く





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