健くん大暴走の巻 〜鷹&燕〜

作:小俣雅史

 

 

 青空が広がっていた。

 それは突き抜けるような解放感をぼくに与える。

 毎日毎日見てるはずのこの空も、この時だけは特別だ。

 朝凪荘のメリッサの上に寝転びながら、満点の空を仰ぐ。

 うむ……これこそ幸せだ。



「ふあ……ん?」



 ぼくが陽気のせいか、少し眠気が迫ってきた頃にふと空青に黒い点が二つ現れた。

 それは高速で移動しながら、度々交錯していた。

 やがてその二つの点は段々と大きくなり、その姿がはっきりと肉眼で捉えられるようになる。



 ……鳥?



 その形は紛れもない鳥で、地面へ向かって段々と降下してきている。

 二つともかなりの速力で、視線で追うのが難しい。

「あ、捕まった」

 すると、片方の鳥がもう片方の鳥の足に掴まれる。

 良く見ればかなりの体格差があり、今捕まってる鳥の方が弱そう……。

「……燕と……鷹か?」

 さらに良く見ると、鳥の種類まで判別できた。

 小さい方は確実に燕とわかるが、大きい方は鷹に見える。

 だが、こんな所に鷹など居るのだろうか?

 トンビならわかるが、鳴き声が全然違う。

 もしかしたら、飼っていた人のが脱走したのだろう。

 まったく、無責任と言うか、無管理というか……。



 危ないなぁ、もう。



 ぼくがそう思いながら空を睨みつけていると、やがて鷹と燕は地面へと軟着陸した。

 丁度朝凪荘の敷地内に落ちてきて、視線を横に向けると見える距離だ。

 落ちた拍子に燕は鷹の手から逃れて暴れ回っている。

 どうも翼をおかしくしてしまったようだ。

(飛べない……燕、か)

 ふと、南先生の言葉が脳裏をよぎる。

 と、次の瞬間。

「ヒィィィッ!」

 燕は鳥らしい甲高い声をあげた。

 それは絶叫だった。

 鷹が、燕の体を食いちぎる。



「っ!!」



 ぼくはその残酷な光景に、つい慌てて飛び出していた。

 燕と鷹のもとへ駆け寄り、鷹を追い払おうとする。

「おいこらっ……!」

 しかし、ぼくは途中で足が動かなくなった。

 鷹の鋭い眼光に体を釘付けにされた。

『弱肉強食のこの世の中。まして自然界に人間が手を出すなど言語道断!!』

『それにこれは俺が欲しいから取った物だ。欲しければ、賭けられる物全て賭けてかかってくるんだな』

 鷹の眼は、ぼくにそう教えていた。

 やがて鷹は燕を咥え、ぼくを睨みつけるように一瞥して、また青空へと飛び立っていった。

 その後姿は、ゾっとする程の迫力があった。



「…………」



 ぼくは何もせずに、立ち尽くした。

 何もいえない、何もできない。

 不思議な感覚だ。

(弱肉強食……取るか、取られるか……欲しい物は自分で奪え)

(誰かが言ってたな……こんなこと)

「伊波くん」

「わっ!」

 突然、後ろから掛けられた声にぼくは驚いた。

「ちょ、ちょっと伊波くん……?」

「え……あ、寿々奈さん」

 ぼくは落ち着いて振り返った。

 そして目の前に立っていたのは、寿々奈さんだった。

 意外だ。

 こんなところに来るなんて。

 ぼくは寿々奈さんがここへ来る理由が微塵も見つからなかったので尋ねることにした。

「どうしたの、寿々奈さん?」

「えっと……その……」

 ぼくが尋ねると、寿々奈さんはなにやら決まり悪げな表情をしながらその場で身じろぎする。

 いや……まさかとは思うけど……もじもじしてる?

 心なしか、寿々奈さんの顔が紅潮している気もするし……。

 おい待て、このシチュエーションって、このシチュエーションって……。

「あの、ちょっと付き合ってくれない」



 来たああああ!!!!



 健くんガッツポーズ!!

 いや、待て……今日は確か先生との約束が……。

「もしかして……ダメ?」

「いいよ」

 ぼくは即答した。

 ぼくは何考えてるかわからない先生よりも、今目の前で可愛い寿々奈さんを選ぶ!!

 どうせ周りからは優柔不断だとか最低男だって言われてるんだ!!

 開き直ってやるわい!!

 この世は弱肉強食!!!!

 強いモンが欲しい物を手にする!!

 先生と寿々奈さんが弱肉強食の世界を織り成すなら、ぼくは求める先となろう!!

 あぁ、モテるって素晴らしい。



 もしかしたら、あの空中戦は……予感だったのかもしれない。

 燕が鷹に食われた……因果だな。

 

−END−

 

 

−執筆者あとがき−

 

健くん大暴走の巻。



期末テスト真っ只中で20分で書いた作品。

ただ溜まったモノのはけ口なのかもしれない……。



もう、何も言うまい

であであ

(2001年11月21日)


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